純文学小説投稿サイト jyunbun 投稿小説番号302 『人殺し』 私は人を殺した。 十八歳の誕生日、まだ、外の蝉が鳴り止まぬころ 何故、殺したの? そう聞かれれば私は笑顔で答えるだろう。 「愛しているから、殺したの。愛しくて愛しくて仕方ないからこの手で殺めたの」 恍惚とした表情に、質問した人は薄気味悪そうに私を見るだろう。でも、それで良い。だって、私は【異常者】なんだから。 他の人とはどこか違う、自分でそう気づいたのはいつだろうか? 小さいころ、母が初めて泣いたのを見た。 理由? 忘れた、でも私のせい。だって、泣きながら私を睨みつけていた。 【おかしい子】 それが私に貼られたレッテル。でも、私はそれを剥がさない。だって、事実なのだから。 現に私は人を殺した。 人殺しなんて、おかしくなきゃ出来ないでしょう? さて、物語を始めよう。 私の懺悔を聴いてほしい。 何故、こんなことをするのか、それは簡単。知ってもらいたいから。 こんなバカな女がいると、誰かに知ってもらいたかったから。 蝉が鳴いている、五月蝿いくらいに、その命を精一杯、生きている。私はどうだろうか?蝉のように、精一杯、生きているだろうか? 答えはノーだ。だって、いつも、生きたくないと望んでいるのだから。 でも、死ねない。自ら命は絶てない。だから、私は生きている。 微温湯(ぬるまゆ)の中で適当に生きている。 でも、突然、熱湯に変わった。それは、私が行動を起こしたから。 それが、非道徳的なことを知り、私は行動を起こした。 何をしたか? 簡単だ。 冒頭にも述べたはず。 そう、人を殺したのだ。 でも、ただの赤の他人じゃない。 実の家族、己の家族をこの手で殺めた…。 私が生を受けた日に、私は人の命を終らせた。 きっかけは、すごく簡単。 母が妹を抱きしめた。 それはもう愛しそうな表情。 妹も嬉しそう。 幸せそう。 単にムカついた。 あぁ、不安定? 嫉妬…。 だから、だから… 私は気づいたら、母の首を素手で絞めていた。 「ぐっ…あ…」 苦しそうな母の声、異常に興奮してる私。 あぁ、おかしい、きっとおかしいのだ。私は。 笑いながら首を絞める。 妹が泣き叫ぶ。 私はそれに反比例 ただ、笑う。笑う。笑う。 そして、妹の首を絞める。 憎しみを込めて、愛を込めて、絞める。 事切れた、母と妹。 私はまた、笑う。 だって、楽しいんだもん。 こんなにも楽しいのは私が【異常者】だからだろう。 「おい、何やってるんだ」 短い父の叫び声。私は奇声を挙げた。 そして…、父も殺した。 隠し持っていた銀色のナイフ。 彼の心臓を貫いた。 「………!!!!」 迸る紅い血。求めていたものが手に入った。 「アハハハハハハハ…」 言葉にならない喜びが全身を駆け巡る。 返り血が私にかかる。でも、そんなの関係ない。 笑い声が家中に響き渡る。 ただ、その笑い声は嬉しさから来るのではない。ただ、狂っているから。 狂った笑い声はこだまして、虚しく反響する。 あぁ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、違う、違う、ちがう………!!! これじゃない、私が求めていたのは違う!!! 目の前に紅い血のりがついたナイフ。 「クックク…フフッ…アハハハハ…」 そして… 迷わず…、ナイフを自分の胸に刺した…。 でも…、ナイフはぎりぎりで止まった。 しらけた、その瞬間。 私は立ち上がり、これまでの人生をノートに書き綴った。 思い出をただ、書き殴った。 それから、そのノートを居間の机に置き、私は家を出た。 ノートの最後にこう書いた。 「家族のみんな、ありがとう。大好きだよ」 って。 近くの海。 ここで死のう。 深く、深く、深く、しずむ私。 ホンワリと青白い月光が私を包む。 あぁ…、ここでなら、死ねる。 安らかな願いとともに私は静かに死ねる。 笑顔が自然にこぼれる。 遠い意識の中、私は、家族の笑顔の幻を見た気がした。 さよなら… さよまら…
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