純文学小説投稿サイト jyunbun 投稿小説番号140 『言い訳―小さな抵抗―』  伝えたい言葉は山ほどあったはずなのに、人を前にすると、ひとつも言葉が出てこない。さりげない会話さえできずに、一人になった時、壁に向かってなにやらぶつぶつと喋っている。  私は無能だ。だからなんだっていうのだ。社会は無能な人間など求めていないし、無能だと悲観的になるのは甘えにしか捉えられない。  ずっとこの堂々巡りから抜け出したかったけど、まだ抜けだせないまま年月だけが過ぎ去っていく。新しい世界に入ったのは良いけれど、その世界で馴染めることもなく、私は私のままで、どんな世界に入っても変わることはないのだ。そのくせ、意思が弱いから、人の意見に流されやすく、心や気持ちだけがふわふわと移り変わっていく。人の判断に依存して、失敗したら心の内でその人を責めてしまう。  私は、何が正しいのか、悪いのかを判断する力はないのだけれど、自分が間違った生き方をしてきた事だけはわかっている。  精一杯努力してきたつもりだけど、その努力は役にも立たず、ただの「労働」だった。 私の事は自分がよくわかっている。よくわかっているから辛い。  堂々巡りをしてきた、ずっと。入口と出口が一緒の迷路に入ったように、結局たどり着く先は同じ景色で、今までの道のりが無意味だったということに気づく。
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