純文学小説投稿サイト jyunbun 投稿小説番号129
『鶴の宿』
狐とは、彼の事である。
しかし、実に大人しい狐である。余りに大人しいので、こいつは大物になる何て笑う動物もいる。でも笑いたいだけ、笑え。そう思うので、余り笑われても気にしない。で、狐はちょいと旅に出た。旅と言っても、すぐ近くに住む「狸」の家までである。狸は親友なり。狸の家の前に着くと、おい、狸さんや、何て声を掛ける。すると、狸は、や、何だい、狐かい、と玄関を開けてくれる。開けられると、もう狸からは酒の匂いがする。
「何だ、もう酒飲んでいる。」
狐と狸は声を揃えて笑った。狐は狸のぼろい家の中へと案内され、狸は冷蔵庫からお酒を持ってくる。日本酒である。
「や!待っていました。」
狐は手を叩いて喜んだ。狸は日本酒をコップに並々と盛り、狐に渡した。
「いやははは、悪いね。」
狐は一気に日本酒を飲み干した。
「上手いか?」
「ああ。」
狐と狸は夜遅くまで、酒を飲み続けた。当然、二匹ともべろんべろんに酔ってしまった。
「あ~あ、今何時?」
「分からね~自分で見ろ。」
「あううう・・・眠い。」
「そうだな~。」
狐と狸はグーグーと高鼾を掻いて寝てしまう。
さて、この話は、鶴さんが来る事で急転する。
鶴さんが来て、二匹とも慌てふためいた事は想像に付くと思うが、狸はまだ酔いが覚めていないらしく、
「鶴がつるっと滑って、鶴万年。」
何て、くだらぬギャグを言いながら、鶴さんに抱き付こうとするので、
「狸さん?狼さん呼びましょうか。」
何て言うと、狸は、ひひっ、と言って、
「そりゃ勘弁。そりゃ勘弁。」
と、狐と鶴さんに笑われるのである。
「そう、今日は狸さんの家に泊まらせてもらいます。」
急に鶴さんがそんな事を言い出すので、狐も狸も驚いた。しかし、鶴さんが強情な性格である事は二匹が一番知っている。仕方なく、
「あ・・・そうですかい。ま、ゆっくりして。お酒飲む?」
と、狸が聞くと、
「いや、いいです。」
と、鶴さんは答えた。
そうして本当に、狸のぼろっちい家に鶴さん、一泊したのだ。翌日、狸が目を覚ますと、鶴さん、もう既にいなくて、置き手紙があった。
一方、狐は仕事場へ向うべく、駅のホームで電車を待っていると、何故か鶴さんが来ていて、狐は声を掛けようと思ったけれども、鶴さんの心情を察し、直ぐにやめた。
ただ一度だけ、鶴さんが狐に気付いたらしく、狐は慌てて頭を下げると、恥ずかしそうに、鶴さんは頬を赤らめた。