純文学小説投稿サイト jyunbun 投稿小説番号305 『もっと一緒に居たい』  私、白井茜には、妄想癖が…コホン、想像癖があった。  幼いころから読書に励んでいたせいか、周りよりも想像力があり、今では苦戦はするものの、二桁×二桁の暗算を頑張って出来る。中学三年生で。  「俺、二桁×二桁なんてチョー余裕」、という中学生がいるかもしれないが、私にとってこれは結構難しいんだから、「へー、すごいね」と棒読みでもいいから褒めてくれ。  と、ここで。私は女であり、さっきも述べたとおり中学三年生である。だが、なぜか私は口調が古風で男っぽい部分があるのだ。「神様のカルテ」の読みすぎなのか、それとも、「放課後はミステリーとともに」の読みすぎ…どっちにしても、読みすぎだが。  ま、そんなことは気にしないのが、私のポリシーであるから、よしとしよう。  ところで…私には、辛い過去が存在していた。  私は小学生の時、読書マニアという侮蔑の目で見られ、しかも、気が弱かったという点で、よくクラスの者達からいじめられていた。本をたくさん隠され、悪口も言われた。  孤独を味わったこともある。「お前はいらない」という言葉が、どれだけ人を傷つけるのかも知っている。人がどれだけ怖いのかも分かっている。  卒業式も、涙さえ出なかった。  それから、家の事情で急きょ転校し、全く面識のない中学校に来た。  知っている人は一人もいない(私にとっては好都合だった)。新しい場所になるかと少し不安交じりに期待を抱いたが、最初の一年目は、小学校の時とあまり変わらないものだった。  周りの様子を見て自分の意見をころころ変え、自分の思ったことを口に出せず、触れると嫌な顔をされることがあったので、それを理由に相手との接触を避けていた。  びくびくしながら生きる日々…そんな私を変えたのは、部活での日々。  吹奏楽部に入部して、一年。二年生になった私に後輩ができ、後輩は何も言わずに私の言うことを聞き、素直に慕ってくれた。それは、何よりうれしかった。  引退してなお、私に廊下ですれ違う時はあいさつをかわす。  それから人と接することに勇気を持ちだし、今では大抵の人に話しかけることは造作もないことだ(はっはっはっは)。  …ただ、普通に接されるのが、まだ自分の中で不思議なことだという感覚は残っている。  最近のマイブーム、と言われれば、あの少年の好きな人を思い浮かべることだ。  あの少年とは、私の前の席に座る、非常に物知りな少年である。  授業中は私の隣の男子とよく話し、宿題の一ページノートはすごい頻度で忘れる(最近はよくしてくるが、ミミズのような字でよく読めない)。なのに、頭脳明晰、成績優秀。  なんか、こう…腹がたつ。  その少年は、私と話すのを楽しい、と言う。単に、友達曰く、私は「話していてとても面白い、ユニークあるキャラ」ということだけだと思うが、まんざら、嬉しくないわけではない。  私と普通に話し、私が聞いたことに関しては否応なしにこたえてくれる。  気が付いたら、その人のことばかりを考えている。  恋愛小説にあった。「気が付いたら、その人のことばかりを考えている。これって…恋をしているってことなの?」という主人公がいた。まさに、その通りだ。  今まで「なんとなく恋愛」を繰り返してきた私だが、本当の恋愛とは、このことなのだろうか…。  でも、その人には好きな人がいるかもしれない。  掃除時間に話しているのを聞いた。私の隣の男子が、その男子に向かって、「やっぱり好きな人だから――――」たることを言っていた。  その瞬間、心がもやもやした。まるで、色の異なる絵具が混ざり合うように。  黒い絵の具が水に落ちるような、そんな感覚なのだ。  現実を見た気がした。私のような読書マニアを好きになるなど、どうかしている。  私を好きになるなど、ありえない。それなら、私のクラスで一番可愛い川島さんだろう。普通。  私は好きという気持ちを紛らわすために、あなたの好きな人を考える。  「彼はきっとこの子が好き。私ではなく、この子が好き」、そう考えると、少しだけ、気が楽になるから。  そう思っていたのに。  ある日のこと、そろそろ席替えの季節である。  「そろそろ席替えか」とつぶやくと、隣の男子は「やったーー!」と言っている。どうやら、同じ班の、私以外のもう一人の女子が気に入らないようなのだ。  この班のメンバーを決めたのは私。少年は、頭がよいから。男子は、少年と仲がよさそうだから。そして、女子は私と仲がよかったから。それだけの理由だ。  男子の喜びを軽く受け流すと、不意に少年が口を開く。  「お前(私)と離れたら面白くなくなる」  不意である。  それはつまり、「席替えをしたくない」ということなのか。  私の頭がぐるぐる回る。  私は、本当はこの班でいたい。もっと、学びあいたいし、正直…少年と離れたくない。  でも、本当のことを言ってしまえば、あなたのことばかりを言ってしまいそうだから。  だから、照れ隠しも交えてこう言う。「早く席替えがしたい!」と。    でも、本当は、もっと一緒に居たいのだ。
この文章の著作権は、執筆者である 四つ葉 さんに帰属します。無断転載等を禁じます。