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純文学小説投稿サイト　jyunbun 投稿小説番号$konopage $dai 　シカがこちらを見ていた。私とシカは幅一メートル程の川を隔てにらみ合うが、シカの瞳には私が映っていなかった。この距離なら私の姿が映るものとばかり思っていたがそうでもないらしい。できればそんなことは考えたくもないのだが、もう何時間もこうしているため、シカの瞳を覗くというくだらない行為に至った。視線をそらしたらどうなるか、見当がつかない。 　本来、私はインドアであり、野生動物の生態系や対処法などに関する知識は皆無であった。シカは出会ってから全く動く気配がなく、そんなことがあるのだろうかという疑問があったが、私もそうであったことに気付いた。 平静を装ってはいたが内では緊張しており、もし襲ってくるようなものなら握っている右拳を鼻にぶつける気でいた。ならばシカもまた同じく平静を装っているだけで、視線をそらした途端に襲いかかってくるかもしれないという考えに至ったのだ。 　私の視界にはシカしかおらず、握っているはずの右手が本当に拳を形成しているのかわからなくなった。まだ、シカの瞳には私が映っていない。それは何度も確認した。私は本当にその場所にいるのかわからなくなり、次第に様々な疑問浮かぶが、その大半は私が嫌いなくだらない思考であった。 　川を境界線に、シカがいる場所が現実で、私がいる場所が幻想のような、現世にはない朦朧とした場所なのかもしれない。それならばシカがこちらを見ているのも、シカの瞳に　私が映っていないことにも納得がいく。 　この境界線を境に二断する世界を一度見たことがある。河原で見た夕焼けに似ているのだ。太陽はもう見えないが、太陽が退散した時に残る足跡、本体のような赤ではなく、その抜け殻のような橙色が空の半分を覆っている。それを支配するかのように薄くぼやけた黒が橙色を支配しようとする。しかしこの二色が交わることはなく、その境界線には白い線で遮られている。私にはそれが運動会の白線に見えた。その線から出てはいけないというルールがあり、未熟な学生でも守らなくてはいけない規律である。 　私は小学校二年生の時、運動会のリレー走でその白線を越えてしまったことがある。叱られる覚悟をしていたが、担任も、親も何も言わなかった。もしかしたら勘違いかもしれないと思い、運動会が終わった後にその白線を見に行った。 　二階にある教室の窓から見たグラウンドでは白線が円になっていたが、近づいて見てみると白線がほとんど消えていた。子供の足跡で踏みにじられた白線はルールの番人としての威厳が皆無で情けなく見えた。大衆が行えば、そして犯人が私だと気付かなければルールを踏みにじってもその処罰がないのだということをその時知った。 　だが、河原で見た夕焼けにはそれとは違うところがあった。いつかその白い線が無くなり、太陽と夜が混じり合うのだと思っていたが、空にある境界線はそんな気配が全くなかったのだ。私はそれが面白くなかった。ルールがあるせいで太陽と夜は一度も会ったことがないのだ。 　今、私とシカを隔てている境界線はどちらだろう。本当にどちらかが現実だとしたら、一生交わることがない世界、空の境界線なのかもしれない。もしそうだとしても、その境界線を無視し、両方が出会ってしまったのは事実である。太陽と夜が出会ってしまったら、どうなるのだろうか。
\n"; echo " この文章の著作権は、執筆者である $namae さんに帰属します。無断転載等を禁じます。



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