純文学小説投稿サイト jyunbun 投稿小説番号172 『ロマンチックな関係』  まだ付き合って3ヶ月しか経っていなかった。仕事が終わりバーで好きな酒を二人で飲む。それが僕達の毎日のデートだった。四十代の僕達はお互い今までパートナーを変えながらここまで来た。  結婚は墓場のようなものだと聞かされていたので特にする気もなかった。 季節は秋から冬になり、街中にクリスマスのイルミネーションがあちこち飾られていた。 「どっか海外でクリスマスしたいね」とルミは言って来た。 確かに行きたいのは山々だが働き盛りの僕達には休みが取れなかった。  ルミとは同じ会社で働いているがセクションは別々で職場の中では滅多に顔を合わせることはなかった。ルミは下着売り場の担当を、僕は外販部門の課長をしていた。 「せっかくだからどっかに行こうよ」ルミがグラスの中の氷を回しながら聞いてきた。 何がせっかくだかわからない。クリスマスの季節だから行くのか、せっかく付き合ってるのだから行くのか?まあ、どちらでもいいんだけど休みを取れるのは忙しい時期なので2日間が限度だった。 つまり1泊2日しか行けないわけだ。海外なんて無理に決まってると思ってた。 「ねえ、調べたんだけど長崎のハウステンボスって知ってる?」 「ああ知ってるよ。オランダの街並みを再現させたテーマパークだろ」 「あそこにあるホテルがいいらしいの。海外にいる気分になるって友達が言ってたわ」 「ふ~ん、そこだったら、海外に行かなくても雰囲気に浸れるって訳だ。行きたいの?」 「うん、イルミネーションも凄いんだって。花火も上がるらしいの」 冬の花火か・・僕は寒空に消える大きな花火を想像した。 「いいよ。行ってみようか。ボーナスも出たところだし連れて行ってあげる」 「えっ、ほんと? うれしい~。じゃ私も何かプレゼント考えないと・・・」 「いいよ別に」 実際デパートの物に囲まれた世界にいると、形あるのよりも形のないものに魅力を感じていた。 だから物を買ってもらったところで、さほどうれしさがないのはわかっていた。 ルミは「どんなのがいい?」と聞いてきた。 「う~ん、サプライズがいい」 「サプライズ・・驚くこと?」 ルミはしばらく考えて、笑いながら 「じゃ~考えておくね。楽しみにしといて」と言って、氷が解けて薄くなったスコッチを飲んだ。 「これからホテルに行こうか」僕は誘ってみたが ルミは「今度のハウステンボスまでとっといて」と言って、次のおかわりを注文した。  約束の2連休は十二月十日にとれた。ルミも合わせて休みをとった。社内で僕らが付き合っているのは誰も知らなかった。まだ3ヶ月しか経ってなかったからなのか、どうでもいいことなのか。  クリスマス商戦の真っ只中なのだが、僕らだってクリスマスを楽しみたかった。多分、それ以降は年末まで休みが取れないだろうから、案外あっさりと許可はもらえた。  JRの在来線を乗り換え、異国情緒を携えたハウステンボス駅に到着したのは午後の2時だった。  駅前からのプロムナードは、そのままパークへと続いていた。入場口の前にある大きなレンガ造りのようなホテルが、今日の予約したホテルだった。なるほど海外にありそうなホテルだ。最丁部は三角の屋根の形をしていた。ホテルの中心にあるロビーに足を踏み入れると、大きな吹き抜けのカフェラウンジが広がっていた。  海側一杯のガラスの向こうには船を係留した桟橋や、オレンジ色の瓦でデザインされたオランダのような住宅が綺麗に並んでいるのが見えた。どれもおもちゃのような三角屋根を頭に抱えグリーンの横板で壁をデザインし、白い窓枠を設けていた。似てるようで似てない個性的なかわいい家が運河の向こうに見えた。    チェツクインした僕らの部屋は14階だった。バルコニーからはテーマパーク中が見渡せた。入り組んだ運河に沿って花の公園やオランダ風の町並みが見える。そして内海である波のない大村湾が広々と横たわっていた。下を覗き込むと、先ほどのオランダ風の住宅が綺麗に並んでいるのが見えた。運河に沿って並ぶ住宅は個人でイルミネーションを付けたり、係留した船にクリスマスの飾りをつけて雰囲気を良くしていた。なるほど海外に来たかのようだった。  ルームサービスで赤ワインを頼んだ僕らは、バルコニーで乾杯した。 「かんぱ~い。メリークリスマス」 一息に飲んだルミは、今度は僕の首に抱きつきワインの香りを漂わせながらキスをしてきた。 「ちょっ、ちょっ、まだ飲んでるんだから」 ルミは開放感からなのか、いつもより笑顔が緩んでいる。 「だ~い好き。今まで付き合った中で一番大好き」ルミは上機嫌だ。 「今まで付き合ったって、何人ぐらいいたんだ?」僕は冗談のつもりで聞いた。 「えっと・・・30人くらいかな・・」 「さんじゅ~・・う・・・」僕はワインをこぼしそうになった。 「嘘よ。ただ多いのは確かかも。その中で一番なんだからいいじゃない」 「今はね・・・」 ルミの屈託のない嘘か本当かわからない数字が、案外嘘じゃないかもしれないと思った。だけど、ホントは気にしてなかった。もてない女よりもてる女がいい女に決まってる。ただ順番が遅かっただけだ。  グラスを置いた僕は、今度は本格的にルミの唇にキスの嵐をあげた。少し寒い十二月の風が唇の隙間から入ってきた。温かい絡み合う舌を冷やすかのように。  そのままベッドに倒れこみたかったが、ルミは「後で」と言って、部屋に入るなりドレスに着替えだした。黒のベルベットに赤いふわふわした毛があしらってある細めのドレスは、映画の高級娼婦のような女に変身させた。それからルミは化粧室にこもった。20分ほどすると、ばっちり化粧をしたルミがドアを開けて出てきた。高級娼婦から本格的ないい女に変身していた。首にはきらりと光るダイアモンドのネックレス。そして、いつも愛撫すると嫌がる耳たぶにもダイアモンド、唇のルージュの大人っぽい赤が僕をドキリとさせた。 「どう?」ほらねと言わんばかりに挑発した目で僕を見る。 「すげえ~・・・高そうな女だ」 「なによそれ」 嘘ではなかった。デパートのフロアのお姉さんとは思えないほど、変身していた。 「変われば変わるもんだ」僕は濃い化粧をした女は嫌いではない。むしろ好きなほうだ。妖艶でなまめかしく、それでいて触れば壊れそうな宝石のような女。今まで会った中で一番綺麗だと思った。 「もしかして、それが僕へのプレゼント?」 「ふふっ、こんなもんじゃないわよ。期待してて頂戴・・・」 今までのルミではないようなルミから言われて、ひさしぶりに背中がぞくっとした。 あまりにもいい女だったので、僕はちょっと出てくると言って1階のフロントに向かった。 「どこ行くの」とルミは聞いたが、 「うん、ちょっとだけ」とごまかして足早に部屋を出た。 ルミのあの姿に、いくらなんでもこんな平服じゃまずい。 僕はフロントで、結婚式のタキシードを貸してもらうことにした。ブライダルもやっているホテルだからタキシードの1着や2着ある筈だ。思惑通り黒のタキシードがあった。僕はブライダルルームの更衣室で急いで着替えると、14階のルミが待つ部屋に戻った。 「えっ、すご~い」僕を見たルミの目は輝いた。 「お前だけいい女じゃ、俺が惨めだ。借りてきた」 「似合ってるよ。かっこいい~。うちら映画スターじゃん」がははと笑うルミはいつものルミだった。  僕らは手を組んでパーク内の予約していたレストランに向かうことにした。ホテルの前の運河から船に乗り、パークの中央部まで行けるのだ。誰もが振り返るカップルになった。  クリスマスだから恥ずかしくなかった。今日は記念すべき二人のイベント。飛び切りの夜を二人で演出するのだ。ルミは堂々と映画スターになりきっている。注目を集めながら僕らはレストランにたどり着いた。すでに暗闇はイルミネーションをより輝かせ、怪しい二人をさらに怪しくさせた。  レストランではこの日2本目のワインをあけてもらった。 グラスをぶつけ合う乾杯はしない。少しグラスをかかげ、今度は二人でウインクで乾杯した。 どこまでも、その気で演じるルミが可愛かった。 いい女と、いい酒と、おいしい食事。これほどのプレゼントはない。 しかしルミは「お楽しみはこれからよ」と意地悪を含んだ言い方をしていた。 期待感が襲う。なんなんだろう。 着飾っていても、おバカな会話とエッチな会話で時間が過ぎて行った。 いつものルミはそこにいた。 パンッ パパパ~ン 花火の音が聞こえてきた。窓の外を見ると花火が海上で打ちあがっていた。 「いいねぇ~。いい夜だ」 「ほんとねぇ~、来てよかったわ~」 二人で寒空に打ちあがる花火を見た。儚い一瞬の光。煌めいてやがて消えてゆく花火はせつない。愛し合った女達との過ぎた恋のように、消えてゆくものなのだ。 ルミもそう思ったかは定かでなかった。 花火が煌めく中、ルミの顔は人形のように美しかった。 僕はルミの横顔にキスをした。 ルミははっと驚いたがくすっと笑って、僕の方に向き直り 「ちゃんとキスをして」と言ってきた。 僕達はみんなが花火を見上げてる最中、光の影で熱いキスをした。  それからバーで、いつものようにカクテルやウイスキーを何杯も飲み、千鳥足でホテルに帰った。 コートを着ていたがルミは寒そうだった。僕はタキシードの上着をかけてあげてブルブル震えながら帰った。おかげで部屋に着いた頃はもう一度飲みなおさなければならなかった。エアコンのおかげもあり震えは1杯のスコッチでおさまった。ルミが優しく背中から抱いてくれたおかげもあった。ルミの体からの香水も寒さを忘れさせてくれた。 さて 大きなベッドのある部屋で二人は何をすると考えていたら 「これからが本番よ」とルミは言い出した。まだお酒を飲むのか? ルミは自分のバッグをがさごそと探ると、箱を取り出した。そしてその箱を開ける。 箱の中身はキャンドルだった。高さ2センチくらいの小さな丸いキャンドル。色とりどりのキャンドルが出てきた。 「どうするの?」僕は聞いた。 「おたのしみ・・・」ルミはいたずらっぽく笑った。 そしてルミは、そのキャンドルを部屋中あちこちに置き始めた。そして火をつけ始めた。 部屋中が明るくなった。 「ねえ、そこのスイッチで部屋の電気消してくれない」 僕はルミに言われたとおり立ち上がり、中央パネルの電気のスイッチを消した。 パチ、パチ、パチと消していくとキャンドルの灯りだけになった。 揺らめく炎のせいで部屋が揺らめいて見える。天上ライトとは違う暖かい世界だ。 ぬくもりのあるキャンドルの灯りは好きだ。 「メリークリスマス・・・いつも優しくしてくれてありがとう」 ルミがかしこまって僕の方を向いて言った。 「そんなことないよ。ただ下心で優しくしてるだけだからさ・・・」 「知ってるよ。あなたはエッチだから・・・でも、そこが好きなの」 ルミは僕に近寄り、いつもより優しいキスをくれた。それから、手を引いてソファーに座らせた。 「これは私からのプレゼントです。今からストリップをします。エヘッ・・」 彼女は笑いながら音楽を流し始めた。  小さなスピーカーを取り付けたアイポッドからはナタリーコールのスマイルが流れてきた。 僕は「ヒュ~、ヒュ~」と声をかけた。 ジャズダンスを習ってるせいかルミのダンスは上手だった。 腰をくねらせ色っぽく踊る。 「いつ脱ぐんだい・・」 「あせっちゃダメよ・・・一緒に踊ろうか・・・」 白い長い手袋グローブをした指で手招きする。僕は立ち上がりルミのそばに行き、片手で細い腰を抱き、片手で手を取り音楽に合わせて左右に揺れた。キャンドルの揺らめきとルミの色っぽさに僕の下半身は興奮していた。 「何か当たってるわよ・・」 ルミは、太腿に固くあたる何かを知っててわざと言ってきた。 「あ~、これね・・・僕もポケットの中にキャンドルを持ってるんだ。後で火をつけてくれないか」 「ふふっ、ばかね・・」 僕は固くなったキャンドルをルミの体に押し当てた。 「ハイ、じゃぁ、これからがショータイム。またそこに座ってて」 僕は女王様に命令されるまま、またソファーに腰を落としルミを目で追いかけた。 曲が替わり、サックスの音が心地よい音楽になった。  ルミは口元に笑みと少々の恥じらいを見せながら、また踊りだし、どこで習ったかは知らないがストリッパーのようにゆっくりとまずサテンのグローブから脱ぎだした。勿体つけるような脱ぎ方にいやらしさがある。 そして指先から離れたグローブをベッドの方に投げ捨てると、近くにあった先ほどのキャンドルのひとつをふっと息を吐いて消した。 「エッ、もしかして脱ぐたびに消していくの?」 「そうよ・・・何枚脱ぐのかしら・・・」 「ひゅぅ~」僕は口笛を吹いた。そしてキャンドルの数を数えてみた。 火がついてるキャンドルはあと8個だ。僕は想像した。手袋が1枚、ドレスが1枚、ストッキングが2枚、ガーターベルトが1枚、ブラジャーが1枚、ショーツが1枚・・これで7個のキャンドルが消える。 あと1個のキャンドルがついているうちに彼女はすッ裸になるはず・・・どうするんだろ? すばやい計算といやらしい想像をしてるうちにルミは2枚目の手袋を脱ぎ、また消した。 そして、近づいてきては僕の頬をなでてゆく。次はドレスなのか・・・ 予想通り次はルミの体から黒いドレスがするりと落ちた。足元に落ちたドレスを足で僕の方に放りやる。  裸に近いルミの体を見ているところにうまい具合に、ドレスが飛んできた。手に取ったドレスからは先ほどまで着ていたぬくもりと、甘い香水の香りがした。そして火を消す。 少し暗い部屋の中で下着姿のルミが妖艶に踊る。僕の口元は緩みっぱなしだ。 「次は何がいい?」と聞きながら、ガーターベルトのストッパーをパチンとはずす。 「一気にブラもいいけど、君にまかす・・・」 「じゃ、ストッキング脱がせてくれる?」と言いながらルミはつま先を僕の膝の上に置いた。 「お言葉に甘えまして・・・」僕はルミの太腿の付け根近くからストッキングをクルクルッと脱がせた。 ルミは笑いながら、僕のソファーのそばにあるキャンドルを消してみたいな催促をする。 僕はキャンドルをひとつ、唇をすぼめてフッと消した。これで4個のキャンドルが消えた。 部屋の明るさも薄暗くなり、でもまだ、彼女の体の隅々までは十分に見える。  次は脱がせた足の反対側のストッキングだ。 これはルミ自身、ベッドに足をかけてできるだけ美しく見えるようにゆっくりゆっくり、わざとらしく僕の顔を見ながら脱いでいった。そして脱ぎ終わったストッキングを僕の首に巻いた。これも少し彼女の匂いがした。そしてまた火を消した。 あと4個のキャンドルが残っている。今度はガーターベルトをはずす。そして消す。 あと3個だ。 すでに彼女が見につけているものはブラとショーツの2枚だけだ。ヒュゥ~・・・ さてどうするのかと見ていたら、次に彼女が脱ぎだしたのは・・・ネックレスだった。先ほどから淡い光に揺れて輝くダイアモンドのネックレスだ。そうか、その手があったのか・・・じゃピアスも・・ 僕はルミがネックレスをはずそうと首の後ろに手をやったときに 「ネックレスは最後にしてくれないか・・・裸にダイアモンドが似合いそうだから」と言った。 「ふふん・・・いいわよ、それがお望みなら・・」 喋り方まで、色っぽい女になってしまっている。 ブラをとる前にわざとじらすように間を空ける。なかなかルミはブラをとろうとしなかった。 長く待たせられるほど期待させられる。早く早くと19の少年のように興奮している僕がいた。 下着姿のまま、僕が座っているソファーに足をかけたり、後ろを向いて腰を折り、ヒップを揺らしたり 両脇からおっぱいを抱え、谷間を見せたり、挑発するように、そそるように僕をじらせてくれた。 そして僕に近づきクルリと反転すると腰をかがめた。どうやら僕にブラのホックをはずして欲しいらしい。僕は黒いブラのホックの留め金を両手でゆっくりはずした。肩から落ちそうなブラを抱え立ち上がると部屋の真ん中にあるキャンドルを消して、ブラをはずすと放り投げた。 ぐんと暗くなった部屋の中でルミは上半身をさらけ出した。そして僕の方に振り返った。 まあるいカーブの綺麗な乳房が僕の心にズンときた。宝石とショーツ1枚の彼女は2個のキャンドルに照らされてゆっくり踊った。 下着姿より、あっさり胸をさらけ出した方がいやらしくないのは何故だろう。別にがっかりしたわけじゃないが男は大事なものを隠される方がぞくぞくする。それでも、まだ興奮は続いてるのだが・・・。  そして、ルミは後ろを向くと腰をくねらせながら最後の下着を脱いだ。そして消した。 裸同然、ダイアモンドのネックレスだけを身に付けたルミは、最後のキャンドルの前で恥ずかしそうに踊った。古代インドの踊り子のように身をくねらせ、指先を伸ばし、長い足を妖艶に絡め、まるで神の儀式で生贄の最後になるかのように、美しく踊った。 僕は立ち上がり拍手を送った。そしてルミに近づき抱き上げた。柔らかい肌が僕の手の中でさらに柔らかくなった。ギュ~ッと抱きしめ「ありがとう」と言った。ルミのキス。僕もルミの熱い思いに応えるようにキスを返した。 「どうだった?」ようやくしばらくぶりにルミが口を開き聞いてきた。 「よかった。見ている僕が恥ずかしかった・・・」 「そう、私はおもしろかったわ。ストリップの才能があるのかしら?」 「あっても、他で披露しなくていい」僕は笑った。 暗くて明るい1個のキャンドルの炎が揺れている。僕らのひとつの影が白い壁に映し出され、黒い影が揺れていた。 「最後のこのネックレスもはずす?」とルミが聞いてきた。 「いやいい・・このまま君を見たい。それをはずしたら真っ暗になってしまう」 「そう言うと思ってたわ。でも恥ずかしい」 「最高のクリスマスプレゼントだった。ありがとう」僕はそう言うとルミにキスをした。 「あら、これからが本番なんでしょ・・」ルミが笑う。 「そうだね・・忘れるとこだった・・」 僕はルミの体から離れると、最後の灯が点いたキャンドルをグラスの中に落とし込み、バルコニーの窓を開けて手すりの上に置いた。外は寒い冬の夜だった。バルコニーの窓を閉めると僕達は二人で外のキャンドルの灯りを見た。部屋の中は暗くなったが、窓からは暗闇にキャンドルが浮かび上がった。  たくさんのイルミネーションもいいが、たった一つの灯りもロマンチックでいい。 時折風に吹かれて消えそうになる頼りない光だけど、僕達に残った最後の愛の光だ。 それから僕達はベッドにもぐりこみ、いつキャンドルの灯が消えたのかわからないまま愛し合った。                                                                      (完)      
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