純文学小説投稿サイト jyunbun 投稿小説番号160 『Psalm』 とにかく、武器を作るのが得意だった。中学のころにはリモコンでテーザー組み立てたことがある、意外と簡単であった。勿論他人に危害を加えるためでわなかった、ただの趣味だけでありグレてた仲間に自慢するだけのことだった。そんなことを考えながら、マグカップに四杯めのコーヒーを注ぎながら音楽雑誌を手に取り、ページをめくり返した。高校三年の俺は精神外科を第一希望として日本に留学した、日本には親戚がいて俺は引越すようにここに来た。唯一の心当たりはアメリカが恋しくないことだった、ほとんど森林に囲まれた団地に狭い寮に過ごし、ろくに話し相手もいない毎日がテストと勉強ばかりでフラストレーションが無意識に溜まっていて学校生活自体がもうだんっまりというところだ。ところがある日、ポストに手を入れてみると珍しく手紙が三つも入ってた。一つはイタリアの祖母から、もう一つは父から、だが最後のは少し大きめの封筒に日本の大学院からの物。さっそく寮に帰って開けてみると中には招待状と大学教授の名前がのった紙が出た。 「八雲教授から・・・」 丁寧に万年筆で津図ってあった文字を読み上げるとあまりの歓楽で前髪を後ろに引いた。精神外科大学の入学許可が下りた。母と八雲教授は仲がよく、前にも大学のことで個人的に話したことがある。医学検定を受けて合格した俺でも、まだどの大学に入学するかはほとんど決めてなかった。父に相談したところ、「八雲教授に伝える」と言いつつ、「イタリアのほうからも連絡をとる」と答えた。ちなみに心の中では「やっとここから出られる」という喜びに満ち溢れていた、これでまた誰とも社交的に過ごせなかった沈黙の三年間の幕が閉じた瞬間。たとえ先に何があろうと人生を目の前にした覚悟は絶対、受けてたつと胸に誓う。 午前六時、そろそろ登校の時間、食パンは焼かず軽くジャムを塗りカフェ・オ・レと友に食し朝食を終える。毎朝駅まで二キロ、冬以外にはジョギングする、これはともかくアメリカでの習慣だけれど気分転換にも健康にも最適な運動と思う。桜が散り巻く道を走るのは初めてで、いい香りが空気を漂う、この辺りの美しい光景に気を取られ筋肉の痛みはしだいになくなってくる。 「痛ッ!」 何かが腕筋にぶつかった、 荒い息つきで範囲を見回しても人の気配がない、だけれど確かに何かに突進したのは違いない。いつかすると、地面のほうからメソメソと泣く声が聞こえた。下を向くと、長い袖で涙ぬぐいする日本人の女子生徒が貧弱そうに屈みこんでいて今にでもおお泣きしそうにいる。早手に慰めようと自分もしゃがんだが間に合わず、赤ん坊のように口を固め叫んだ。 「幸子姉!この人千尋のこと押した~!」 彼女はまるで子供のように大粒の涙を零しながらこちらの方を指さした。いきなりのことでついつい英語であやまったけれども通じるわけがなくここは思い切って日本語で言ってみた、やはり久しぶりに話したことで少しなまっていた。それでも泣き止まず、周りからサラリーマンやらほかの登校生にまで視線を向けられた。とんでもない誤解を招かれたのに違いない。すると、人ごみの中から疾風のごとく駆け抜けるもう一人の女子生徒がこちらに接近してきた。 「ねぇ、ちょっと!私の妹に何したのよ!」 やっと説明できる人が来たと思いきや、突然彼女は足を前に出し俺の腹を蹴り上げた。その激痛でたちまち自分は床に倒れた、女性だと油断していたものもこの痛みは洒落にならない。 「今度また私の妹に触れたらただじゃおかないわよ!行くよ千尋!」 と、倒れこけたほうの女子生徒の手を引っ張り立ち起こして買い物を終えた母と子のように歩いて去っていく。何とも不公平な日本での学校初日の朝だった。 日本学校の校門はアメリカのと比べて必要以上大きかった、ガランと空いた校庭も何とも言えないほどの広さで正直驚く。西洋の風習に育った自分は下駄箱の慣れに苦労した、ぶっちゃけ面倒だとも思い始める。小耳で挟んだところ生徒が教室に行くのではなく、教師自身が教室に来ると聞いた時は気が少し楽になった。これほどの階がある校内を走り回らずに済むことには納得する。建物の成り立ちは平凡としていてレンガよりコンクリートでできているのはなぜなのだろう?謎めきながら校舎を眺める。最初の授業にベルの代わりにチャイムが鳴る、皆がとたんに席に着く。 「おい、アイツ外人の転校生か?」背後でコソコソとしゃべる声がする。ここで反応して面白い奴だとからかわれたらシャクだと感ずき、分からないフリをする。そもそも俺が高校を通ってる理由は、アメリカでは学年が日本より遅れているため大学までにはあと一年の辛抱が必要になることになった。チャイムが鳴り終わるころ、がらりと戸を開けて担任らしき人が入ってきた。 「はい、皆静かに、今日はアメリカから新しい転校生やってきたので自己紹介をしてもらましょう。」 「しまった!」これだと俺が日本語を話せること確実にバレてしまうことになる。しかたなくここは惚けてみることにしてみた。わざと外人っぽく発音をなまらせてみた。 「アメリカから転校して来ましたニコラス・サトリアーニです、宜しくお願いいたします。」 念には念をと冷炎的な顔つきしてみたら、中には微笑みを描くのもいたとしても、だれ一人とも笑い出すことはなかった。うまく誤魔化せたなと、俺は静かに席に戻った。初日は特にすることがなかった、昼休みには数人の日本人生徒が日本語でもしくは一生懸命に英語で会話をとろうと試みたが、やはり信用できず「ニホンゴハナセナイ」と説明し回避した。すかっり外人と思い込まれた俺は、結局誰とも話さず一日が過ぎていった。下校時間になったころ、下駄箱から靴取り出し校門に向かって歩き出したそのとき。ドスッと後ろからなにかが飛び込んできた、細く、短い腕が俺の腹筋を囲み抱きついてきた。恐る恐る腕の輪を緩めてみると見知らぬ女子が涙でびしょ濡れにした顔を俺の征服に潜りこんでいる。優しく頭を叩いてみると、彼女は俺を見上げた。この子供のような泣きべそはたしかあの、今朝、学校での道のりでぶつかった日本人だ。質問を問いかけようとすると途切れ途切れに先に話し始める。 「た・・・助け・・・て・・・幸・・・幸子姉が・・・」 とまた今朝のように長い袖で涙をぬぐう。 彼女に案内され、手を引かれながら俺は事態が不明のまま連れて行かれる。前を走る千尋の姿は必死で、肩にまで伸びたストレートなロングヘアが摩擦で揺れ、横からはいつものとうり涙が流れ落ちる。校庭裏に出ると、近くにあった芝生の中に千尋が身を隠しながら誘いの合図を交わし俺も友にしゃがもうとすると彼女が強く服をひっぱり、こけてしりもちをついてしまった。「シーッ!」千尋は人差し指を唇に当てた、俺は静かに頷く。枝と枝の間を掻き分け、むこうにある柏の木の下には千尋の姉らしき女性が腹を抱えながら倒れている。周りをとぐろ巻くのはほかの同級生たちで、彼女を見るなり笑った。そこでこの一人女子は輪から外れ先頭に立ち、倒れているほうの頭を踏みにじった。ふっと気が付くと、肌は団体の中でも一番白く、髪はヨーロッパ系の金髪で目の色は青、これは日本人ではない。 「姉ぇ・・・」 シクシクと泣く千尋、苦しむ姉、相手が外人なら通用する、多少もめ合いになりそうだが惨事にはならない。決意した俺は芝生から立ち上がりゆっくりと彼らに近く。 「もうやめろ」英語でいった瞬間、一斉にこっちを睨んできた。 「お!この外人いい度胸してんじゃねーか?」 「やんのか、コラ?」 暴言を吐きつつ次々と指を鳴らしながらせっまてくる。上着を握り締める千尋に下がってろと差地図し、鞄を放り投げた。茶髪で耳あちこちにピアスを付けた男が拳を顔めがけ攻撃を仕掛ける、アメリカの友人とふざけてK-1のスパーリングをやって遊んだ経験が記憶に新しかった。少し脅すか、と素早く相手くスクワットし両足と襟を掴み横に軽く突き倒した。 「こんな軽い体重の奴ら、いくらでもやってやるぜ。」125kgダンベルのリフティングを10回以上こなせる俺にそういう自身がある。なんとなく手間同ように二人目がかかってきた、次は回し蹴りで来るが、胸で受け取り、背骨を押して前身で倒れた。他の連中は脅えビクともしない。 「うまいはね、関心するわ。」欧米系の女子が足を幸子の上に乗せたまま前髪を耳にまで摩りながら皮肉な口調で言う。 「とっとと彼女から足を離せ。」 「なってなるものか、コイツがまた生徒会長に認定されると先が乱れるから今こうやって圧力かけているのよ。」 「理由なんか聞いてない、そのなまった英語発音もしくはイギリス出身か?」 「アメリカ人は人見知りが多いものね。」 「そんなこと言われると困るな、俺も完璧にアメリカ人ではないんでね。」 ゆっくりと歩きながら近寄ると彼女は足に力をいれ、 「これ以上くるとこの女の首の骨を踏み潰すわよ!」と威嚇する。 「いい加減にしろ!その十字架のペンダントはなんだ?プロテスタント教だろ!」 「はっ!」 首から提げた黄金に輝く銀色のチェーンにとうした十字架をすぐさまガウンの中に隠した。 「はぁ!」 回復したのか幸子が寝たきりのまま英国人の太ももに自分の足を当て、地面めがけ全力で彼女のことをはりたおす。 「キャッ!」 地面と衝突し彼女は弱い悲鳴を上げた、幸子はフラフラと立ち上がりスカートとシャツについたほこりを掃う。 「幸子姉~!」 担任教師と友に千尋が幸子の胸に飛び込んできた、他の男子たちは逃げ去った。春の昼間は暖く、南風に乗って桜のいい香りが漂う、空は雲一つもなく地平線の奥にまで長引いていた。久しぶりの自由の空気を肺いっぱいに吸う。 保健室で手当てを受けている幸子を俺と千尋は待っていた。不安そうな表情で背中を前かがみにしながら座っている千尋を見ながらポンッと肩を叩く。 「大丈夫、大したことないさ。」 と励ましてあがたいのは山々だけど日本語は話してはいけない・・・ 「ニコラスはなぜ日本語が分からないフリをしてるのかな?」その発言で一瞬鳥肌がたつ、凍りついた。 「今朝、千尋に謝った時のほうがもっと日本人ぽかったのに。」 たしかに、冷静に考えてみると実のところ俺は以前彼女に日本語で話したことがある。ドジをしていきなり地雷を踏んでしっまた自分がみっともない。 「千尋、ニコラスと隣のクラスにいるから自己紹介を聞いていて知ってるの。」天然の仕草をしても本性、鋭い面もある。今さらとぼけても意味がない。 「このこと誰にも言わない約束だぞ。」低い声で頼んだ。 「うん、分かった、いいよ」彼女は微笑む、 「でも一つ条件があるの。」 「その条件とは?」半信半疑に緊張が高まる。 「あの・・・えっと・・・千尋の友達になってくれたら黙っておいてあげる!」椅子から跳び上がって恥ずかしそうに彼女は小さな手を差し伸べる。 「俺のあだ名はニッキーでいいぞ。」千尋の手をそっと握りながら自分も立ち上がる。 「やったー!」クリスマスのプレゼントを用紙を破り、中にあるおもちゃを見て興奮する子供のように腕を上に伸ばし足を折り曲げ宙へと跳ね飛び回る千尋だった。 「千尋もう一人の友達ができた!神様ありがとう!」 家に帰ったころは辺りは暗くなり空は紅色に染まった。俺が引っ越した家はとある三階建てのアパートでそのオーナーが親戚、親切にも部屋を一つ安い価格で貸してくれた。部屋は3LDKの和風デザインでリビングのすぐ横に窓があり狭いバルコニーがついてる。台所にはガスコンロが二つ、隣には洗面台、食器棚も置いてあったが、通常ではコンビニ弁当を食べるため使用しない。折りたたみ式のテーブルとプラズマ画面のテレビがある部屋には戸棚があり、そこで睡眠と食事をとる。バスルームはほとんど使わず、近所の近くにある温泉に通う。机、布団、デスクランプ、食器などはすべてアメリカの寮からもちだしてきたもの。早くも千尋からメールが届いた、内容は放課後のなんらかの集まりの集合時間だった。 「分かった」の一言を返信し終わったのち、壁に掛けててあった時計を見た、七時でもあるし腹も空いたことで毎日のようにコンビニに出かけることにした。都市の夜はきまって明るかった、ボーっと道を照らすライトと家の塀上に猫がとおり過ぎる。逆方向に進む俺は片方の手をポケットに入れながらイヤーホンを着けた。ロック派でありながらもたまにはポップを聴く、リズムに合わせながらだんだん歩くのが早くなるのが感じる。気が付くとコンビニはすぐそこ、時間というのは恐ろしく速い。スナックコーナー、酒コーナー、雑誌コーナーと「いらっしゃいませ」と声をかける定員、なんとも日本の不陰気というものに包まれた。「ドゥ・ユー・ライク・トーキョー?」と質問してくるよぱっらったおじさんを追い貸し、コンビニ弁当をカウンターまで持っていく。お菓子が並ぶラックを横切るとそこには小学生ぐらいの男の子がなにやら無我夢中でポケットの中に押し込んでいる。よく見ると、キャンディーやらキャラメルを手の平いっぱいポケットへと運んでいた。 「何やってるんだ?」と注意するとビクッとこちらの顔をみた、外人であるからこそ余計に脅えていた。一目散に逃げようとする少年の袖を掴み食い止めた。 「離してください!」とせがんだ。 「盗んだものは返すから誰にも言わないで!」もがき逃れようとする彼の落ち着きを取り戻そうとしても無駄でこのまま騒がれるとバレテてしまう。 「心配するな、誰にも言わない、約束だ。」少年はじっとして反省した態度で足元を見下げる。俺は財布のジッパーを開け五百円玉を抓み彼に渡す。 「全部買うには足りないが、これで万引きせずに済むだろ?」少年は頷く。買い物を済ませるとあの少年はまだ店の前の駐車場で立っていてペコリと頭を下げ、暗闇の中に消えていった。携帯の着メロが鳴った、「待ってるね!」、千尋からだった。
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