純文学小説投稿サイト jyunbun 投稿小説番号125 『江頭文学の終わり〈だって改名したから)』                1  我こそは江頭文学の創始者江頭道草なりいいいいいいいいい。 と気合いを入れても、最近は何かこころにひっかかる。 理由は女の涙だ。  俺は綾小路まなみと言う女とデートしていた。まなみは俺が「経済学が趣味」と書いているミクシイのプロフィールを見て、よろしかったら情報交換しませんか? とマイミク申請(ミクシイで友達になることを申し込むこと)とメルアド送って来た。写真も付いていて、すごくいい女だった.色気たっぷり、「さあ、もう貴方を帰さないわよ」と言っているようなオーラを発している。  俺はまなみのマイミク申請を光速で許可し、今度経済学についてお会いして話しませんかとメルアドにメールを送った。 「いいですよ」と言う心地良い返事。  デートの当日、俺は精一杯めかし込んで、オヤジ腹を矯正ベルトで引っ込めてスリムに決めてみた。  待ち合わせ場所は市立図書館の喫茶ラウンジ。静かで読書に疲れている頭を癒すにはぴったりの所だ。  まなみと会うと、彼女は「お会いできて嬉しいわ」とにっこり笑った。その瞬間俺は恋に落ちていた。  だが、俺がコーヒーを頼んだ瞬間だった。 彼女は「いち、に、さん、し、ご、ろく……」とつぶやいて「また一人死んだ……」と言った。涙が一滴美しいほおをつたって喫茶店いっぱいに鳴り響くように「ぼたん」と落ちた。 「どうしたの?」 「悲しいの。貴方は今六秒ごとに一人貧困や飢えで人が死んでるの、知ってる?」 「いや、開発経済学はよく知らないな.まだマルクスを追えてミクロ経済学の中級をやっている程度なんだよ」 開発経済学とは貧しい国をどう豊かにするかという経済学だ。 「そう、この本を読んでみて」 「ふーん。コーヒーの生産か? ろくに生活もできないで飢えに瀕しながら働いてる人がいるんだね」 「次はこの本」 「なるほど世界では10億人も飢餓で死線をさまよっているひとがいて、6秒に一人、飢餓で死んでいるんだね」 「貴方すっごい速読ね」 「細かいところにこだわらない江頭文学だからね」 「神は細部に宿るというわ」 「神に抵抗する文学なんだよ」 彼女は不思議そうな顔をした。 「貴方何者?」 「ああ江頭文学創始者初代江頭道草だよ」 「それはどんな文学?」 「人々を笑わせる文学だよ」 「飢餓の国の人は笑わせることはできる?」 「そ、それは……」俺はややたじろいだが「できるとも」ときっぱりと言った。 「どうやって」 「俺の江頭文学は江頭経済学も兼ねているんだ」 「江頭経済学?」 「格闘技で言えば総合格闘技だね.打って、決めて、投げる。この全てに対応した総合経済学だ」 「貴方、だってマルクス読んでミクロの中級しかしらないと言っていたわよね」 「具体的にはこうすることだ!」 俺は彼女から本をひったくるとぽいと投げた。 「江頭経済学秘技、問題放り投げ」 まなみは呆然として言った。 「貴方は笑えても、飢えてる人は笑えないわよ」 「う」 「江頭経済学破れたり、ね」 「だが江頭文学に絶望はない。きっといつか解決して見せよう」 「そう、これから頑張るのね」 「そうそう未来は明るいよ」 ようやく彼女はにっこりと笑った。 「あの押しつけがましいけど」 彼女は色々本を渡してくれた。 「解決のヒントになると嬉しいな」 俺は彼女の本を受け取ると「じゃあ今度は飢餓問題を解決して見せよう」 「約束よ」 勿論しなきゃ良かった約束だった。                    2    なんだこりゃ、俺は頭を抱えた.飢餓問題は非常に入り組んでいて一介の経済学オタクにわかる問題ではない。江頭文学にも不可能はあったか、と認めた。  俺は「作家でごはん」のラウンジに、文学止める小説書きます。と書いた。アフリカの難民を笑わせられない文学なんてやってられん。経済学に特化するぞ。 ラウンジでは感想欄論争が発生しており、メッセージはすぐ流れてしまったが、すぐに大量のメールが来た。全部女子高生からだった。 「江頭文学は、私の救いです。止めないで。もし止められれば、私生きていけません」 「江頭文学は暗かった私の心を光のでる場所に移してくれました」 「江頭文学で便秘が治りました」 「江頭文学で癌が治りました」 「生理不順が治りました」  本当か嘘かわからないが、とにかくすごい人気だ。 確かに、江頭文学は全国の女子高生を慰めているらしい。でも、こいつら貧困国の飢餓なんて考えたこともね―だろ。それで笑って便秘が治って癌が治ってりゃ、世話無いぜ。 でも一通こういうメールがあった。 「どうしてあきらめてしまうんですか? それって見て見ぬふりと同じじゃないですか。それなら江頭文学で日本の女子高生を笑わせていた方が人助けでましなんじゃないですか?」  確かにその通りだ。鋭いメールだな。 そしてそのメールには写真が付いているのが江頭文学のお約束だ。  勿論すごく可愛かった。  益田このみちゃんか? おじさん、ナボコフの「ロリータ」を読んでみたくなったよ。読んだこと無いけどこういう気持だったんだろな。 益田このみちゃんは「あたしの女子高生エキスぜんぶすいとってえ」と言ったオーラを発している。  俺はままよと、メールに「ぜひ会ってみたい」と返事を書いた。 「いいですよ」とメールが来た。                 3  汽車、汽車シュッポ、シュッポ、このみちゃんの街まで電車で行った。考え事をしたかったから車は避けたのだ。勿論考えるのはこのみちゃんをどうラブホテルに連れ込むか。きっと俺に足りないのは若さだ。このみちゃんの若さエキスを吸い取ったら、きっといい案が浮かぶ.若い頃、世界中の問題全部の解決策を思いついたときがあった。精神病院に入院しているときだった。歳を取って、あの感覚は忘れてしまった。 思い出したらもう一度精神病院だろう。  何か論理的に矛盾があるなと思いつつ、俺は世界の飢餓問題の解を求めて電車に乗っていた。ずっと窓を見ているとあいていた隣に誰か座った。外人さんで.金髪美人のグラマーさんだった。「江頭道草さんね」次の瞬間驚いた。「益田このみよ」 「え、このみちゃん?」 「そう」 「君だって写真と違いすぎるよ」 「ネットを甘く見すぎたわね」 「確かにそうかもしれませんが」 「わたしはナオミ・ド・エロスチャイルド」 「え?」 「だから超巨大財閥の令嬢、ナオミ・ド・エロスチャイルド」 「ええええ」 「飢餓問題を解決したいんでしょう?」 「え、ええ」 「私と結婚しましょう」 「えーーーーーーーーーー」 「エロスチャイルド家を手に入れて、企業の側から搾取をなくすのよ」 「え、ええ」 「すでに、ノーベル賞経済学者アマルディィア・センはエロスチャイルド一族と結婚したわ。彼もインド生まれで貧困と飢餓を専門に活躍する学者よ。勿論エロスチャイルド家を手に入れて飢餓をなくそうとする野望を持ってるわ。彼に経済学を学びなさい」 「ええ」 「貴方さっきから『え』しか言えないの?」 「江頭故に『え』から始まるI love you.」 「え?」 「貴方を愛してる。もう離さないよ」 「て、てれるな」 「どうせエロスチャイルド家の情報網で私のことはお調べでしょう」 「まあね。電車の時間まで調べ上げたわ」 「どうして僕に会いに来てくれたのです?」 「江頭文学、最高だもの」               4  俺はこうして、エロスチャイルド一族の娘と結婚した。まなみちゃんも祝福に来てくれた。初恋の人(ずいぶん遅い歳だな)さようなら。 それは静かな幸せな結婚式だった。ロスチャイルド一族のある男が倒れた。それから次々と人間が倒れた。粛清である。ワインに毒を盛ってあるのだ。もうエロスチャイルド家主流はあこぎな金儲けは止めて、クリーンに商売したかったのだ.だが障害になる反発者も多い。一挙に消せ、と言うわけでばたばた人が死んだ。 事件はそのとき起きた。毒に強い男がいて震える手でピストルで俺を狙ったのだ。 「危ない」まなみちゃんが飛び出した。 死んだのは俺だった。まなみちゃんは途中で転んだ。ナオミ、俺は幸せだったよ。 で、なんで意識がここにあるの?  俺はどうやら幽霊になっていた。 「大丈夫?」ナオミが死んだ俺よりも、まなみちゃんに駆け寄った。 「貴方可愛いわね.お姉さんといいことしない?」 「え、駄目です」 どんどん血で染まった俺の死体を使用人が片付けに来た。 「本当は好きなくせに」 「わかります? へへへ」 そうして俺は幽霊となって、ナオミとマナミちゃんのレズビアン・セックスをのぞいてオナニーした。肉体が幽霊だと若返るので何回もオナニーできた。 「あ、ああん」 「そ、そこおおお」 たまらんなあ。                 5  そう言うわけで粛清はスイス銀行から始まった.スイス銀行の秘密番号講座からちゃんと身元確認するようにシステムが変わった.世界が大混乱になり大粛清がはじまった。 そして貧困飢餓国の内戦の主導者もむごたらしく殺された。あまりのむごたらしさに後継者もなく、武器輸入商人もみんな殺されたので血が流れた。 その頃まなみちゃんは「いち、にー、さん、しー、ごー、ろく。ああん」 とナオミとレズセックスに励んでいた。  独裁者が殺され、ゲリラの頭目が死んだ。エロスチャイルドが介入して新国家が貧困国に築かれ、しっかりした政府の元インフラや産業基盤が整備され、貧困国はたちまち豊かになった。 まなみちゃんの思いは叶ったのだ。 だが俺は忘れ去られたままだった。もう何この小説最悪。  後日談を書こう。 それから10年後、飢餓はとっくの昔になくなった。俺は相変わらず幽霊で成仏できなかった。そうだ。 「ねえ、江頭さんって覚えてない? マナミちゃんが言った」 「馬鹿みたいな小説書いてあっさり死んじゃったわね」 「なんで江頭さんの事なんて思い出したんだろ」 俺は江頭文学秘技反魂を使って彼女たちに呼びかけていたのだ。 「そう言えばお葬式もあげてあげなかったのよねえ」 「かわいそうだわ」 「お葬式を挙げてあげましょう、えーとユダヤ人はめんどくさいからキリスト教に改宗したのよね。バチカンはお得意様だし」 「じゃあ彼もキリストの所に送ってあげましょう」 と言うわけで葬儀が行われ俺は天国に行った。 天国では綺麗なね―ちゃんがたくさんいて思わず心の中でエロイ事を考えた。 「才能枯れた江頭さん。イエス様がお呼びです。」 アナウンスが流れた。 「君い。困るよ。汝姦淫すべからずって知らないの?」 俺はむっと来ていた。この馬鹿な神様が早く働いていれば飢餓なんか起きなかった。 俺も死ななかった。何が後でまとめて悪人は刈り取るだ。 そしてつい言ってしまった。 「神に反逆するのが江頭文学です」 と言うわけで地獄に行くことになったよ。 「どこがいい?」 イエスの野郎、サドだね。 「地獄ラーメンで」  辛い辛いラーメンを食わされました。  ラーメン。                           おしまい コラージュ  2月3日 へへへ、これが本来の僕です。楽しまれると良いのですが。 おまけ はち切れ太郎 昔々、はち切れんばかりに勉強している中年がいた。 「もうダメだ。はち切れる」 脳の容量を超えるはちきれが起こりそうだった。 だが老化して脳のしわがふえたので 脳みその容量もアップした。 それで勉強もすいすいできた。 だったらいいな。                              おしまい
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