純文学小説投稿サイト jyunbun 投稿小説番号103 『今から文化について語ろうと思う』  例えばアニメ。  君だって子供の頃は真剣に見てたんじゃないかな。なんかあるでしょ。そうだな、僕の世代ならタイガ○マスク。知らない?そうそう、黄色くてちっちゃい可愛いやつが出てくるやつ。毎週楽しみにしてた。見逃しちゃった時のがっかり感といったらなかった。今思い出すと笑っちゃうなぁ、なんであんなに真剣だったんだろうって。  それで僕は考えるわけなんだけどね、文化ってなんだろうって。急すぎる?色々と飛躍してる?まぁそこは見逃してよ。こんなこと口に出すのは初めてなんだ。それに自分の中になにか言いたいことがあるっていうことはわかるんだけど、いまいちそれが何なのかよくわからないんだよ。まぁ話していくうちにそれがある程度まで自分にもわかるようになるのかなっていう気持ちもあるんだ。  前置きはこれ位にして話していきたいわけなんだけどさ、僕は君の知ってる通り頭は良くないし論理的思考能力も皆無だ。あまつさえ文化というものを体系的に理解していない。そんな僕が漠然と感じてること、ここでさっきのアニメの話に戻るけど大丈夫かな。大丈夫。それじゃあ続けさせてもらうよ。あっ、そういえばさっき聞き忘れたけど君は子供の頃真剣に見てたアニメってなにかあるのかな。えっ、サザエさ○。そうかぁ、君はきっと小さな頃からマイペースだったんだろうなぁ。どういう意味かって?それは秘密だよ。とにかく、これで僕にも君にもかなり真剣になったアニメがあるということがわかったわけだ。今回はそのことが大事なポイントなんだ。  当時の僕にとってそのアニメはまさに人生そのものといっても過言ではなかった。今でも覚えているんだけどね、それは木曜の夜7時から放送されてて、僕は6時を過ぎた辺りからまだかまだかと掛時計を睨みながら居間中を歩き回るんだ。その時間は美しかったよ。確実に約束された喜びが1時間か30分ちょっとの後にそこに控えている。どう、想像してみてよ。まぁ君の場合なら仕事終わりのお酒のことを想像してくれたら良いんじゃないかな。  あぁごめんごめん、悪かった。そうだね、君の言うとおりだ。僕だって何が言いたいのかわからない。でもね、一つ言いたいのはさ、文化のあり方とか形態のことなんだ。君は文化っていうと何を思い浮かべる?うん、そうだね、大抵の人は文化と聞くとそういった少し敷居の高い、僕達にとっては関係のないようなものを思い浮かべるね。僕だってそうだ。でもほら、昨今アニメは日本の文化とか言われ始めてるじゃん。そういうことなんだよ、僕が言いたいことは。えっ、意味わかんない?ま、よ、要するにさ、なんだか僕らは無意識下で文化に優劣をつけているような気がするんだ。もちろんこれは僕の考えじゃないんだけど、より上の層には文学とか絵画とかそんなんがある感じするよね。そしてより下の層にはさっきまで話してたアニメとかゲームやらがあるような気がすると思うんだ。偏見かなぁ。でも誰にだってこの感じはわかるはず。言葉には出さないけど、心の奥ではアニメとかゲーム、最近ではライトノベルっていうのもあるらしいね、とにかくそういったものを少なからずばかにしてる。そうそう、たまにいるよね、自分は文学を読んでるからとか言ってお高くとまってるやつ。やだやだ。  じゃあこの二つの層の間には何があるんだろう。君には何だかわかる?そうか、そうだよね、実は僕にもよくわからないんだ。でも、一つ最近思ったのは歴史が深いか浅いかの違いなんじゃないかっていうことなんだ。絵画で言えば、ここからは定義が難しいんだけど、下手したらその起源を旧石器時代の洞窟壁画までさかのぼれるでしょ。文学だと、そうだな、ここでは文学イコール本あるいは記録とさせてもらえるなら古代中国の甲骨文字とか古代インカ帝国のキープなんかにまでいけるんだ。それに比べてアニメの起源は新しくても1900年位だから、それは単なる歴史の違いなんじゃないかなって。少し飛躍があるかもしれないけど、500年後1000年後にはアニメは文学とか絵画に肩を並べるレベルの文化になる可能性を秘めているんじゃないかと思うんだ。ゲームだってそうだ。個人的にはゲーム業界の最近の発展には目を見張るものがあると思うんだけど、その起源は1950年前後だ。歴史が浅いんだよ。  あっ、もちろん、僕は先代の偉大な画家や文豪、それにそれを愛好する人を悪く言うつもりじゃないからそこはしっかりと頭に入れておいて。  もう一つ。これからの文化みたいな話になるんだけど、僕達の世界は今途方もなく多様化してるよね。アニメーションを作ってそこから何かを伝えることもできるし、ミクシィで毎日のことをだらだらと書き連ねることもできる。君も最近何か始めたって言ってなかったっけ。そう、ツイッターだ。それは楽しいの?あぁ、そうなんだ。まぁそれは置いといて今の僕達には多くの表現方法があるということなんだ。ここで想像してみて欲しい。例えば、ドストエフスキー。彼は1866年に「罪と罰」という有名な本を書いている。1866年だよ。この時何かを表現しようと思ったら彼が文学の道に進んだということも妥当なことだと思う。でも彼が現代に生きていたらと考えてみて。ひょっとしたら彼はアニメを表現手段に選んだかもしれない。可能性はゼロじゃないさ。いや、十二分にありえることだと僕は……あまり、思わないけど、可能性はゼロじゃない。つまりこの現代では表現方法の多様化で天才的な人物がアニメの方向に歩を進めている可能性があるかもしれないということなんだ。ん、一理ある?さすがだ。君はわかってる。    退屈だ。こいつは何を言いたいのだろう。  私は金と結婚したんだ。こうなるだろうということは結婚する前からわかっていた。    おっと、もう5分たってるね。とりあえず乾杯しておこう。    やつの目配せでボーイが近づいてきて恭しい手つきで私のグラスに高そうなワインを注いだ。ワインは悪くなさそうだ。    それじゃあ、君の瞳に。チン。    私は一気にワインを呷った。視界には歯茎を剥き出しにして笑うやつの顔があった。反吐が出そうだ。    それでね、さっきの話なんだけどね、どこまで話したっけ、おぉそうだ、アニメにも現代のドストエフスキー的人物がいるかもしれないというところだった。まぁそういうことなんだよ。文化ってわからないものだよね。これからはどんなものが人類の文化として発展していくのか。個人的にはゲームが一番の可能性を秘めていると思うね。さっきも言ったけどさ、最近のゲームはやっぱりすごいよ。映像もかなり綺麗になってきてるし、まさに映画だよ。ん?映画はどうなんだって?映画かぁ、そうだな、考えてみると映画の歴史は浅いけど、確かに文化として認められているし地位も高い。例外もあるようだね、うん。  それでね、今日はなぜ突然こんな話を君にしたかというとね、実は君に言っておきたいことがあるんだ。もちろん君は寛容な心の持ち主だし、様々な文化への素養もあることを僕は知っている。それでも、人は時として偏見というものを持っている。もし君が変な偏見を持ったいたら大変だからね、今日はこんな回りくどいことをさせてもらった。それは許して欲しい。これは僕の弱さだ。後でいくらでも僕を責めてもらって構わない。  君に絶対に入るなと言ってある部屋があるだろう?そう、僕達の寝室の隣の隣にある部屋だ。君は僕が入るなと一言言っただけで無闇な詮索は全くせずに言うことを聞いてくれたね。正直、僕は君がその部屋の正体を知ろうと僕に色々と聞いてくると思っていたんだ。でも君はそうしなかった。それで僕はわかった。なんて僕は小さい人間なんだってね。そして同時に君の偉大さも知った。  本題だ。その部屋には僕が20年かけて集めたアニメやゲームのグッズがある。今まで隠していて申し訳ない。君はそんなこと隠さなくても良かったと言うかもしれないけど、そこには理由がある。世の中には僕の好きなアニメやゲームにひどい嫌悪感を抱く人が一定数いるということも事実なんだ、わかって欲しい。君はそういった部類の人間ではないと思っている。でもジャンルがジャンルだからね……君は知ってるかな?いわゆる萌えアニメとかギャルゲとかいうものなんだけど。た、た、ただね、嫌悪感を抱く人はただ食わず嫌いなだけなんだと思うんだ。ちゃんと見ていないんだ。キャラクターは可愛いし声優さんの声だって可愛い。嫌悪感を抱く人達は見てもいないのに最初からだめだ決めつけてかかっているんだ。なんだって食わず嫌いはいけないさ。  それでね、君が初めて見るのにふさわしい萌えアニメは何だろうと最近ずっと考えていたんだ。僕は見つけたよ。去年の10月から12月にかけて放送されたアニメなんだけどね、ジャンルとしては魔法少女ものといって、簡単に言ってしまえば、ある日突然少女が魔法を使えるようになって悪と戦うというものなんだ。監督もシリーズ構成もアニメーション制作も僕の信頼できる人達だ。見て損はないはずだし、悪くないと思うよ。それは僕が保障する。  だから今日帰ったら一緒にあの部屋でそのアニメを見てみよう。ね?
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