純文学小説投稿サイト jyunbun 投稿小説番号012 『サノバビッチ焼きそば』 その一  あーめんどくせえ。だるいだるいだるい。僕は中学二年の十 四歳にして既にめんどうくさい病にかかっていた。まあ、今が 五月だから、五月病なのかもしれないが。とにかく僕は、その 事に気付いた。大変だ。大変だ。  それで僕は病院に行ってみた。 「なんにもやる気がしないんです」 「それは君、病気だよ」  丸眼鏡をかけた細身の年老いたお医者さんはろくに調べもせ ずにそう言った。  先天性無気力症候群。それが僕の病気の名前らしい。  お医者さんは胸を張って言った。 「君の病気の名前はそれで間違いないね」 「本当ですか」 「本当も何も、そうに決まっているよ。この超一流国立大学の 医学部を首席で卒業し卒業後もエリート街道を邁進してきた私 がいうのだから、間違いはないさ。小説を書いているような人 間の屑は、ひょっとしたら疑ってしまうかもしれないがね」 「ああ、僕は人間の屑かもしれません。小説を書いているんで す」 「それは屑だね。なんの意味もないよ。小説なんてのはこの私 のように社会的地位と名声をしっかりと得てからか、親がもと もと高名な人で七光りできるとか、そういうのじゃなきゃ、意 味が無いね。そうじゃなきゃ、くじ引きと同じだ。仮に出版ま でこぎつけても、すぐに消えるさ。無意味だよ。己の分を知っ た方がいい」 「まったくですね。僕は今まで無意味な事ばかりやってきたよ うです。取り返しが、つくでしょうか?」 「無理だね。失った時間は決して戻らない。けちん坊な君はこ れからその浪費したゴミみたいな時間を大切にする為に、ます ます小説にのめり込んでいくだろう。身の破滅だよ。今すぐ死 んだ方がいい」 「まったくですね。あなたみたいな人生の勝利者には、とうて いなれそうにありません。僕は、僕は人間が嫌いなんです。男 は汚物をいつも皮膚の上に噴出させているし、女は綺麗に着飾 っているつもりでも、腹の中に汚物を貯め込んでいるんです。 その上みんな、頭の中まで、真っ黒なんです。人間は、不思議 ですよね。ゴキブリの群れを見つけると気味悪がって大騒ぎす る癖に、自分達が集まっているのはチームプレーだとか仲間の 力だとか助け合いだとか友情努力勝利だとか、美徳にしてしま うんです。僕はいつも人ごみの中にいるだけで、発狂してしま いそうになります」 「ふーむ、それはよくない事だね」  老齢なる人生の勝利者、お医者さんはカルテに何かメモをし た。精神疾患の疑いあり、と書いてある。 「僕は精神病なんかじゃありません。僕は他人と少し違うだけ なんです。まったく、この世の中は少しも多様性を認めてくれ ない!」  お医者さんは笑って言った。 「そりゃあそうだよ。この世は肩書きが全てさ。金を操る立場 にいる人間が一番偉いんだ。君はただの中学二年生で、そのう え厨二病だ。それじゃ誰も多様性なんて認めちゃくれないさ。 私なんかね、間違って何人も人を殺してしまったけど、おとが めなしさ。他のところでお釣りがくるくらいみんなに持ち上げ られていたからね。何をやってもみんなが褒めてくれるし、ま ったく、日本は最高だよ」  それから僕達は二人で歌を歌った。人間の屑が病院に来て最 高、お医者さんが人殺しをして最高、日本最高、地球最高、み んな最高、お金最高、肩書き最高、ビバ日本、ビバ地球、頑張 れ日本、頑張れ地球、コカコーラ、コケコーラ、ペプシで最高、 腐った血の色みたいで最高、おまんこおまんこ、臭くて最高。  肩を組んで一通り歌い終わると、お医者さんは死んでいた。 僕達はあんまり楽しくなり過ぎて手術室に乱入、帝王切開中の 若い奥さんの腹の中に顔を埋めて老齢なるお医者さんは自害な されたのだった。 その二  僕には生きている価値が無い。それが僕を取り押さえた若い 外科のお医者さんの言いたい事全てのようだった。 「よ、よくも私の尊敬する先生を!」  うち震えるような表情で胸倉をつかまれ、それからぶん投げ られ、看護婦さんだか看護師さんだか知らないが、色々な人に 覆い潰され、僕は悟った。ああ、あの老齢なるお医者さんは、 やっぱり偉い人だったんだなあ。僕は駆け付けた警官に手錠を かけられ、パトカーに乗せられた。その間その若い外科のお医 者さんはずっと僕を罵倒していたのだが、合間合間に警官に事 件の概要とやらを説明していた。そうして、僕があのお医者さ んを無理やり、女の人の腹に頭を突っ込んだという事に、病院 側の説明では、なったようだった。まあ、それはどうでもいい。 僕は我慢に我慢を重ねてきた事があって、その行為をする前に、 一言断りを入れておきたかった。僕は左隣の人に率直に言った。 「ねえ、おまわりさん、オナニーしてもいいですか?」  おまわりさんは怪訝な顔をしている。 「僕ね、小説を書いているんです。プロになりたくてね。最近 どんどん上手くなってきた気がして、ちょびちょびと結果も出 てきたりしていてね、このまま頑張っていれば誠実なる小説家、 真人間たる小説家になれるかなと思ってたんですが、どうにも 時間が足りない事に気付いたんですよね。それは僕がオナニー が大好きだからなんですよ。毎日三時間はオナニーに費やして います。そうなると空き時間が足りなくなってね。毎日一時間 書けるか書けないか。こんなんじゃプロになるだなんて、土台 無理な話ですよ。ねえ?」 「どうせその小説も……」 「わかっていますよ。それもどうせオナニーなんだ。でも、人 生なんて全部、オナニーみたいなもんでしょう? 他人の撒き 散らした体液の上に、僕達の生活は存在しているんだ」  そうして僕は手錠をかけられたまま器用にズボンのファスナー を開け、オナニーを始めた。しこしこしこしこ。 その三  吐瀉物が気持ち悪いのはどうしてだろう。自分の体内にあっ たものなのに、気持悪く感じるのは、どうしてだろう。不思議 な事だ。アルコールを飲み過ぎた時はグレープフルーツが酔い 覚ましに良いと聞いたので、グレープフルーツジュースをがぶ 飲みしたのが、かえってよくなかったらしい。体質により、ひ とそれぞれなのだ。  僕の子供の時の夢は世界征服だった。小学生の前半くらいま でだったろうか。それから、小学校の高学年になると性欲が芽 生え、世界征服なんかより女を飼いたいと思うようになった。 広い、広い、体育館より広い部屋で、僕は女達に全裸でゲーム をさせる。ゲームの敗者は犯されるか、さもなくば死だ。部屋 は敗者の女の肉で作ろう。東京ドームより広い迷路を、女の肉 で作ろう。そう、まるで内蔵のように、僕を産んでくれた母の 内側のように、それはこの上なく僕の心を鎮めてくれるだろう ……。中学校に入ると、僕は少し現実を見るようになった。性 欲にかまけるより高尚な目的に生きたい、でもいきなり世界征 服なんて、無理だ。それで僕は日本征服を考えるようになった。 片田舎で僕は青空を見上げながら風に吹かれながら、人殺しの 事を考えていた。日本の要人を皆殺しにするにはどうしたらい いだろう。罪人を全て死刑にするにはどうしたらいいだろう。 世界に溢れている脳味噌の腐った人間を皆殺しにするにはどう したらいいだろう。いつもそんな事を考えていると、夢を見る。 いつも意味のわからない夢だ。大抵、人が死ぬ。自分が死ぬ。 自分が死ななくても、誰かが死ぬ。僕は子供の時から悪夢しか 見た記憶が無い。夢が心を映すものだというのなら、それだけ 僕の心が絶望に彩られていたということなのだろう。朝になっ てもその夢は鮮明に覚えていて。ある時、思った。どうして僕 はこんなひどい夢ばかり、見るのだろう? そうして父の声を 聞いて、思い出す。ああ、僕は、父親に虐待されていたんだっ た。なーんだ、そんな事だったんだ。くだらねえ。ははははは。  二十四か。すっかり年を取ったものだなあと思う。小説もろ くなものが書けないし生きていくだけの作業に毎日時間も取ら れっぱなしだし、死んだ方がいいのかもしれない。過去は嫌だ。 未来は嫌だ。どっちにも、つらいものしかない。アルコールに 浸かって屍のように今を生きているのが、一番良い。しかし、 待てよ? 僕は屍のように生きているというが、本当に「生き て」いるのだろうか? 既に僕の、あるべき僕の人格とでも呼 ぶべきものはとうに死んでいて、今ここにあるのはただ「魂」 とでも呼ぶべき電池が僕の肉体を動かしているだけなのかもし れない。そういやあ、子供の時に随分頭を打ったっけなあ。父 さんに、馬乗りになられて、殴られたんだ。僕を形作っている 脳味噌に、傷が付いたかなあ。そしたらもう僕は、僕じゃない んだろうなあ。じゃあ、今の僕って、なんだろう。今の僕って なんだろう。そんな事を考えていたら夜の住宅街に奇怪な叫び 声が響いたので、こんな故障品の住む部屋などにいるよりはと、 僕は外に出ていく。  ボサボサの白髪の老婆が宵闇の中、小水を漏らしながら、何 事か呟いていた。そこに家族と思われる五十くらいの女がやっ てきて老婆の手を握り、もう、おばあちゃん、勝手に出歩いちゃ 駄目でしょ。あんた誰だあ? 何言ってるのよおばあちゃん、 私は私でしょ、あなたの娘の。私に娘なんておらん。ちょっと、 あ、おばあちゃん、どこ行こうってのよ。私は、私はあの人に 会いに行くんだあ。おじいちゃんなら三年前に死んだでしょ、 何回言わせるのよ! 私はあの人に会いに行くんだあ、私はあ の人に会いに行くんだあ、私はあの人に会いに行くんだあ。  自身の排泄した小水で衣服を汚している薄汚い老婆、止める 娘。その光景を見て僕はなんだかある種天啓を受けたような気 分にさえなり、 「わかったぞ! わかったぞ! わかったぞ!」  今の僕はこの痴呆の老婆と同じ。既に世界を正しく認識でき ていない、肉人形に過ぎなかったんだ。  僕は老婆の所に駆け寄り、その薄汚い手を両手で握り、 「おばあちゃん、ありがとう! わかったよ! わかったよ! 僕、わかったよ! ありがとう! ありがとう! 痴呆万歳!  くそばばあ万歳!」  五十くらいの娘は怪訝な顔をしている。僕はその人に謝った。 生きててごめんなさい。ならさっさと死ねよ、と言われる。困 ったものだ。みんな死ねばいいのに。 その四  思うに僕の人生に足りないものは人としての誠実な考え方で ある。僕は凡人の凡才に過ぎない。人より少々つらい事があっ たかもしれないがそれだけで、天才ではない。ただ幼少の時の 影響により他人より悪意が多めに蓄えられているに過ぎないの だろう。しかし、所詮統計を取って偉い人が分類すれば僕より つらい目にあった人なんてたくさんいる。どの環境で人間が腐 り、どの環境で人間が腐らないのか。そんなの、人それぞれだ。 つらい目にあった事の無い人間がつらい目にあった人間を分類 する。それがこの世の中だ。そこまで考えたらふ、と目の前か ら声が聞こえる。  あなたよりつらい目にあっても、頑張っている人はたくさん います。そうです、そうです、まったくその通りです。でも頑 張れていない人だって、たくさんいますよね? そういう人を あなた達は簡単に無視してしまいますよね。お互い様かもしれ ませんが。自分に近い側の人間しか、認められないんだ。まあ、 でも、確かに僕より頑張っている人だって、たくさんいるでし ょうね。あなた方は腐ってしまうほどの経験をした事がないか ら、残酷にそんな真理を口にしてしまえるのですね。正しい事 を言われると人間って怒りますよねって、子供の口げんかでよ く使われるセリフ、知ってますか? でも、ねえ? 正しい事 を口にするって事は、残酷な事ですよ。相手の気持ちも考えず に真実を口にしてしまえる人間ってのは、僕は好きじゃないな。 だって、そうじゃないですか? そもそも人間の存在価値なん てゴミみたいなもんなんだ。僕だって真実なんて、口にしよう と思えば簡単に口にできるんです。あなたはゴミです。今すぐ に死んでも自殺しても殺されてもレイプされても、宇宙的規模 でみればまったく、一瞬で忘れ去られる存在に過ぎないわけで す。二酸化炭素の増加を抑える目的でいってみれば、今すぐ地 下鉄にでも飛び込んで、自殺なさった方がエコかもしれない。 いえいえ、実際に地下鉄に行かれたら、駄目ですよ? あれは 交通機関に経済的影響を与えたかどで、親族が随分お金を払わ されるそうです。そうでなくても、他人に迷惑をかけるのは、 よくない事ですよ。あなたの体は汚物でできています。疑うな ら、ちょっとカッターか何かで、手首でも切って御覧なさい。 その血を見てあなたがまだ美しいと思うのなら、御自身ではら わたを開いて御覧なさい。それを見てまだあなたが美しいと思 うのなら、私は降参です。でも、ちょっとでも気持悪いと思っ たら、それは私が正しかったという事ですよ。御自分の小腸と 大腸に蓄えられている排泄物まで、愛して御覧なさい。あなた にはそれがお似合いです。今までなんのつらい目にも遭わず、 のうのうと生きてきたあげくに、地獄を見た人間を否定するん だ。あなた方に必要なのは苦痛と屈辱と絶望、僕には誠実な考 え方。異なる考え方を持つ人と人との間には、歩み寄りが必要 です。そういう事で一つ、どうでしょう? え、ああ、そうで すよね、そちらは圧倒的多数派なのですから、歩み寄る必要な んて、ないですよね。ええ、いいですよ、僕の意見なんて、僕 ごと、踏みつぶしてくださって。ぽちっとね。おや、それさえ もしてくださらないのですか、そうですよね、僕は死ぬ事もで きない人間の屑ですものね、生きているのが罪で、罰ですよね。  そこまで僕は一人でペラペラと喋ってから、目の前にいる人 間が誰だったのか、わからなくなってしまった。僕は僕の部屋 で、子供の時の戦隊モノの人形に向かって、話しかけていたの だった。どうしてこんな人形なんかに、話しかけていたのだろ う? レッドに話しかけていた。別にピンクでもイエローでも よかった気がするのだけど、僕は主人公になりたかったのかも しれない。主人公を妬んでいたのかもしれない。ああ、駄目だ、 駄目だ、駄目だ。過去は振り返っちゃいけない。貧乏暇なし、 である。過去を振り返る暇があるなら、鼻クソみたいなはした 金を貰う為に三回まわってワンワン言って会社に貢献できるよ う、ペコペコ侍にならなければ。太陽は既に南にあった。あー あ、今日会社行ってねえや。 その五  僕は自分の部屋の地下室で汚物と戯れていた。そこは防音処 理が施されており、人間の絶叫を遮断するのに、十分なように できていた。もっとも、初めからその為に作った部屋だったの だが。  僕は目の前で、両手両足を寝台に縛られ仰向けに寝ている少 女に向かって言う。 「僕には友達が必要だと思うんだ。孤独は人の精神を苛んでし まう。アニメや漫画はいっつも友情讃歌だし。だから僕も主人 公になるには、友達が必要だと思うんだ。ねえ、君、友達にな ってよ」  僕は臆病な人間だ。臆病に過ぎる。人間の汚さに耐えられな かった僕は企業戦士としての人生を途中でリタイアし、親の残 したわずかな遺産を食い荒らしての引きこもり生活も、既に破 綻を迎えようとしていた。どうせもう何もかも終わりなんだ。 いや、いやいやいや。僕の人生に、「もう」なんて、使う価値 もない。僕の人生は初めから終わっていました。はいはいはい はい、それでこそ僕らしい。徹頭徹尾、駄目人間。どうせ自分 でわかっているんだ。こんな醜く膨らみたるんだ腹の中年のお っさんになってしまっては、僕の駄目人間加減もいよいよ表面 にまで出てきたかという感じで、なんだか逆に楽しくさえなっ てしまう。自身を破滅させ、他人を破滅させる。そうしたいか らそうするんだけど、最終的な自分の表現手段であるそれは、 どうせなら美しいものがよかったよ。でも僕は、もう醜い中年 オヤジなのであった。谷崎潤一郎か。ただのエロオヤジだよ。 スケベで何が悪い! 男性器は成人男性なったからってすぐに 成長を止めるわけじゃないんだ。動物としての人間の最終目標 は子孫繁栄バコバコセックス種付け祭りである。その点でいえ ばペニスは大きい方がいいだろう、美しいだろう。そう考える と今の僕はまさに人生の絶頂期、最も美しい時期に相違ない。 僕のチン棒は大きいチン棒だ。珍宝、お珍々とでも名付けよう か。  少女は猿ぐつわをされていたので、僕の友達になって欲しい という願いを拒否も承諾もできなかった。まあでも、僕は彼女 の返事なんて、最初から期待していなかったんだ。少女の年の 頃は十四歳であった。いや違った十五歳。今日が十五の、誕生 日なのであった。何回目の十五の誕生日か忘れてしまったけれ ど、痴呆の老婆の介護をしていたおばさんの、娘なのだった。  僕は人間の精神というものについて誠心誠意考える。僕の人 生に足りないものは人としての誠実な考え方であると信じるか らである。その欠点に若くして気付いた僕は、それから、二人 の女性をこの地下室で飼っていた。痴呆の老婆と、その娘であ る。五十くらいのその女から住所を聞き出した僕は、そこにい た少女も僕の家へと連れてきた。僕は少女と老婆には点滴で栄 養を与えておき、まず五十くらいの女を餓死させた。その時少 女は一粒の涙も流さなかった。既に僕が徹底した制裁によって 涙を流す事を禁止していたからである。ただ殴るだけでは絶望 は焼きつけられない。……確か、なんちゃらとかいう動物の実 験があった。心理学の実験だったろうか。実験動物のいる場所 に、電流を流す。するとその動物は電流から逃れようと必死に 辺りを走り回る。しかしどこにも逃げ場はない。そのうちその 動物は学習してしまう。けっして電流の流れない場所に行く事 など、「できない」のだと。次に実験動物のいる方半分の床だ けに、電流を流す。向こう側へ移動すれば電流から逃れる事が できるのである。しかし実験動物は電流が流れてもじっとその 場で蹲るだけで、向こう側へ行こうとしなくなってしまうのだ という。誰だって無駄な労力を使いたくはない。絶望を、学習 してしまうのである。逃れようとする努力を、しなくなってし まう。あるがままに苦痛を受け入れる、従順な存在になってし まう。愚かで悲しい事だけれど、しょうがない。絶望を否定す るのは相手の気持ちを考えられない人間だ。……しかし、それ にしても人間の学習能力というのは、まったく素晴らしいもの だと思う。僕は少女に絶望を学習させた。僕の家の地下室には、 その為に色々と準備がしてあった。  ラックという拷問器具を御存知だろうか。人間を上下に引っ 張り、脊髄を破壊する道具である。魔女狩りなんかが行われた 時代の、中世西洋ヨーロッパでよく使われた拷問器具である。 これは美しい少女の見栄えを大きく破壊してしまうので、僕は 餓死してしまったおばさんを引っ張って遊ぶ程度にとどめてお くしかなかった。爪と爪の間に針を刺すという行為も面白かっ たのだけど――一つの肉体で手と足、合計二十回も楽しめると いうのもエコだ――、僕がこの少女に与えた最も面白かった罰 は、火あぶりだった。  その古典的な拷問をより楽しめるものにするよう、僕は誠心 誠意考えていた。まず少女を立った状態で鉄の殻に入れ、固定 する。そう、まるで鉄の処女のように……。特に足首は金属製 の錠で、しっかりと固定する。そうして足の裏を、あぶるのだ。 足首を固定する錠には内側に針が取りつけられており、暴れる と刺さるようになっている。少女はそこで二重に悶え苦しむ。 暴れれば余計痛むとわかっているのに、暴れるのだ。愚かな話 だ。そこで僕は色々と少女に命令して、楽しむ。  地下室から逃げようとした最初の時は、 「もう二度と逃げようとしたりしませんと誓え」 「もう二度と逃げようとしたりしません」 「声が小さくて聞こえないなあ」  僕は火力を強くする。 「もう二度と逃げようとしたりしません! もう二度と逃げよ うとしたりしません! もう二度と逃げようとしたりしません!」  母親が餓死した時は、 「あれはゴミですと三回、ハスキーボイスで言え」 「……」  僕は火力を強くする。 「あれはゴミです! あれはゴミです! あれはゴミです!」 「ハスキーさ加減が足りないなあ」  僕は火力を強くする。 「あれはゴミです! あれはゴミです! あれはゴミです!  あれはゴミです! あれはゴミです! あれはゴミです!」  人間の精神はどうしてこうももろいのだろう。どうしてこう も人間は、自分の思想を簡単にねじ曲げてしまえるのだろう。 薄汚いと、思わないのだろうか? なるほど、ゴキブリ並の生 命力で人間が生存競争を勝ち抜いてこれた理由が今、わかった よ。人間には、思考能力が無いんだ。……しかし、人の思想を 矯正するのは社会主義で、資本主義は人の頭の中にまで立ち入 らないんだったろうか。人の思想を強制(矯正)しようとすれ ば苦痛と恥辱を与えるのが一番手っ取り早い。いやいやそんな 事はよくない自由にいこうよとなると、詭弁讒言がまかり通る。 思想の強制はよくない。それは当たり前だ。だが人間は自由に すれば嘘ばかり吐く。なあんだ、どっちにしても意味なんか無 いんじゃないか。せっかく自由になったところで、誰も真面目 になんて考えやしないんじゃないか。くだらねえ、意味ねえ!  人間の思想に意味なんてありませんでした。くひゃひゃげらげ ら。笑っていたら、思いだした。僕は少女に自分の母親の肉を 食わせている時が一番興奮した気がする。  さて、僕は少女を解体していく事に決めた。僕には友達が必 要だ。だからまず頭蓋を切断しようと思ったのだ。  僕は今からゾンビを作るのだ。  僕は人見知りしやすい人間だから、ペラペラ話すような人間 は必要ない。口答えするような人間は必要ない。笑うような人 間は必要ない。僕の事を同情するような人間は必要ない。ただ、 いてくれればいいんだ。そっと僕のそばにいて、ぬくもりをあ たえてくれさえすれば。その為には思考能力は不要だ。しかし 植物人間じゃあ、あまりにも味気ない。それで僕は頭蓋を開き、 少女の脳にこっそりと、傷を付ける事にする。ロボトミーとか、 いうやつだ。少女は既に十数年間ここで過ごし、十分に衰弱し ていたので、麻酔無しでもそれほどの抵抗も無く僕の糸ノコを 受け入れた。いや、ひょっとするとちょっとは暴れたのかもし れない。十分に拘束していたし、糸ノコを持つ僕の両手にも力 が入っていたので、気付かなかった。さて、僕はピンク色の豆 腐みたいな脳味噌を見てから、気付く。ああ、この切除した頭 部の骨は、どうしたらいいんだろう? 既に辺りには血が飛散 していた。この掃除はこの少女にやらせたいところだ。自分で 汚したんだから。少女を産み落とした汚物である女もその母も、 少女に喰らわせた。手捏ねで、わざわざハンバーグを作らせた んだ。そうして汚物を食した少女は、汚物を排泄する。汚物循 環だ。他人を傷付けない完璧なサイクルだ。存在が罪な人間は、 自分で自分の責任を取らなきゃいけない。はいはい、自己責任 論ですよ。みんな大好き自己責任論。自分が安全なところにい ればなんだって言えるんだ。僕が今それを証明しているじゃな いか。ははははは。  さて、僕は頭蓋の一部を切除した後、少女に見入っていた。 頭蓋の切除というのは大昔、アメリカの先住民がやっていたと どこかで読んだ。その本によると一年くらいは、頭蓋骨が欠け たままでも、死なないらしい。だから少女は今死ぬはずはなか った。だが少女の体はびくびくと痙攣している。少女はここに 来てから、成長を止めていた。精神的ショックで、何かの分泌 物が止まってしまっているらしい。少女は少女のままで死んで いく。死んでいく? そうだ、これはショック状態じゃないか。 このまま死んでしまったら困ってしまう。僕には友達が必要な んだ。脳にダメージがいってしまったのだろうか? 脳ダメな んだから、心臓マッサージよりも脳マッサージの方がいいだろ う。猿ぐつわは外しておこう、意識を取り戻したらすぐに気付 けるように。と、僕はここで不思議な事に気付く。僕のイチモ ツが勃起していた。困ったものだ。血を見て、興奮したのか?  僕は少女そっちぬけで棒立ちオナニーをした。下半身だけ裸に なってYシャツは着たまま、しこしこしこしこ。やったあ、出 ました。なんとなく的があったので、射的のようなつもりで僕 はピンク色の的に子種をかけていた。少女は口からよだれを一 筋垂らし、目を見開いている。大変だ、オナニーしてたら死ん じゃった。友達が、死んじゃった。早く生き返らせなきゃ!  焦っていたら、また勃起。僕は珍宝お珍々で空いた穴から少女 の脳に侵入した。精子まみれの脳はまだ十分に体温を残し、温 かかった。早く、早く生き返ってよおおぉぉ。僕は一生懸命少 女の頭の穴に向けて、腰を振る。くちゅくちゅむにゅむにゅ。 欠けた骨が当たって、痛いや。 その6  あーあ、僕は駄目人間だ。人として生きていく事が面倒くさ くてしようがない。家が墓場のようになってしまったので、僕 は少女と一緒に旅に出た。僕はそこではまだ十台で、少女と一 緒にいて、花畑で、恋をした。僕は少女の家に行って、一緒に 暮らすようになった。そうしていつものようにWiiに打ち込 んでいると、少女が僕の所に来ていきなり僕の頬を張る。なん だよ、いきなりビンタなんて。あんたわかってるの? もう何 もかも終わりなのよ。どうして終わりなのさ。だって私達もう 全然お金無いじゃない、生活できないわよ。お金がなきゃ生活 できない、とっても普通な事だね。ええそうね。今までどうや って生活してたっけ? 私があんた以外の男とセックスして貰 ってきてたでしょ、でももう私だって若くないんだからそろそ ろ無理よ。大丈夫だよ君は年を取らないから。僕の心の中にい るんだからさ☆ わけのわからないこといって誤魔化さないで よ、私が嫌なの。そうだね。どうするの? 絶望的な状況だね。 あなたがゲームばっかりやってるからよ。でもゲーム面白いよ。 今はそれどころじゃないわ。じゃあ死のうか。働きなさいよ!  やだよニート最高~、人間の尊厳を剥ぎ取られて会社に飼われ るくらいなら死んだ方がいいや。……じゃあ、死にましょうか。 それで僕達は死ぬ事にした。お互いにお互いの大切な物を持っ て、心臓を包丁で刺し合って、死ぬんだ。僕は少女の携帯電話、 少女は僕のWiiを持った。そこで僕は言った。 あのさ、や っぱり死ぬのやめない? どうして? なんか死ぬの怖くなっ ちゃった、働くの? 働かないよ。じゃあどうするのよ。小説 家になるんだ、それで一発当ててかわい子ちゃんをいっぱいは べらせて、そこで君とセックスするんだ、金さえあれば自由な んだ、だから大儲けして遊びまくろうぜ、処女作はドレッドな 刺激に王道の友情努力勝利を絡めた……って、ああ、僕のWii が! 真っ二つじゃないか、この馬鹿野郎、どうしてくれるん だ! 妄想ばっかり言ってるからよ! なんだとこいつ、僕は 真面目に将来について考えているってのに、そんならこうだ!  ああ、私の携帯電話が! もう生きていけないわ! そいつは いいや、お前が死んだら僕が喜ぶ、ひひひひひ。新しい携帯買 ってよ! 僕が? どうして。あんたが壊したんだもの。嫌だ よ僕だってWii壊されたし、お金も無いし。働きなさいよ!  嫌だよ。それから僕達はしばらくにらみあっていたのだが、や がて馬鹿らしくなり二人して、噴き出した。あー、もうやめや め。そうね、先の事なんて考えてもしょうがないわ。今お金ど んくらいある? ちょっとしかないわよ。最新式携帯もWii も買えないのか。なら、DS買いに行かない? あれなら、対 戦もできるし。いいね。それで僕達はDSを買いに有り金全部 持って歩いていく。中古のDSを二つ買ってきて、一日中対戦 していた。それでみんな幸せだった。
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