純文学小説投稿サイト jyunbun 投稿小説番号011 『おかえりセルフィ』  登校だけでなく、下校の電車でも彼と一緒になるなんて、今日はラッキーだ。  試験前で部活が休みになったおかげかな。私は無意識のうちに緩んでいた頬を、隣に座る白雪に悟られないようにと引き締める。  朝の満員電車とは打って変わって、夕方の車内は閑散としており、ほとんどが同じ中学の生徒だ。なんの隔たりもなく見つめられるということは、向こうがこちらに気づくことだってあり得るかも、と、私はひとり胸を高鳴らせた。  彼は友だち二人と談笑していた。会話の内容までは、わからない。右耳に挿し込んだイヤフォンのフォーカスが、電車待ちのときからお喋りをしている白雪の声合っているせいだ。もしも彼らにフォーカスが合っていたとすれば、聞き取れる距離かもしれない。 「ああ、部活がない喜び!」  私の心中など知らない白雪は、学校指定のカバンを抱きしめ、身体を左右に揺すった。名前とは正反対の、すっかり日に焼けた肌がまぶしい。彼女は水泳部だ。この季節はくたくたになるまで泳ぐため、いつも疲れたと愚痴をこぼしている。 「でも、泳ぐのは好きでしょ?」 「そうだけど、いまはセルフィが待ってるからねえ」  まるで初めて彼氏ができたときのオノロケのように、彼女はうきうきした様子で話す。 「あんまりセルフォイドに構ってると、試験、ボロボロだよ」 「なに言ってんの、勉強、教えてもらうんだよ」 「セルフォイドは勉強なんて教えてくれないよ、アンドロイドじゃないんだからさ」 「え、そうなのお?」  白雪は残念そうに目を細める。  ま、彼女はセルフォイドを所有し始めて一週間ほどらしいから、構いすぎてしまうものかも。もしかすると私もそうだったかもしれない、と考えてみるけれど、幼すぎてよく思い出せないのだった。  セルフォイドの所有は十三歳以上が推奨されているのだが、父は母と離婚してすぐ、私が寂しくないようにと買ってくれた。まだ八歳だった。だから、私は同年代の子たちよりも、セルフォイドとのツインレベルは零に近い。零に近いということは、自分に近いということだ。  白雪と会話をしながら、私はちらちらと彼に視線を移した。  ありふれた赤茶けた髪をしているのに、まだ成長期が訪れていないほどの背の低さなのに、さして整った顔立ちでもないのに、友人二人に囲まれて笑顔を作る彼は、私を惹きつけてやまない。そしてセルフォイドは、この感情すら共有できる。 「なあ、あれ――」  そのときふと、彼の友人のひとりが電車の上部に等間隔に設置された、レーザーグラフィビジョンを指した。彼が視線を上げて、私もつられてそちらに目をやる。白雪も視線を上げた。波が広がるようにして、乗客のほとんどが一斉に注目した。その瞬間、車内が静ま返ったので、イヤフォンのフォーカスがグラフィビジョンに合わさり、ニュースの内容が直接耳に滑り込んできた。  ――本日十四時頃、新東京湾にて破損したセルフォイドが放置されているのが見つかりました。持ち主は近くに住む十四歳の少年で――  どうやら、セルフォイドの破壊事件のようだ。  しかも、十四歳だって! 私たちと、同い年じゃないか。急に車内は賑やかになった。中学生といえば、ほとんどがセルフォイドを所有して間がなかったり、これから購入予定があったりするので、この手の話題には敏感なのだ。もちろん、私だって動揺する。 「やだなあ、帰ったら、親がうるさいだろうなあ」  隣で白雪が眉をひそめた。 「うちも、なんか言われそう……」 「やっぱり? だよねえ、親としては心配なんだ」 「先月もなかったっけ、セルフォイド殺し」 「あったあった、それで私、購入が延期になったもん。まったく、いい迷惑だよね。普通、殺さないって」  白雪の発言に、私は心底同意する。  うちの父も、こういったニュースがあるたびに心配しているのだ。私がセルフォイドを殺さないかを。  セルフォイドは部屋に設置するタイプの動かないロボットだけど、私たちは「壊す」ではなく「殺す」という表現を使う。上半身だけとはいえ、彼らは人間の形をしていて、人間と同じように話して、表情だってしっかりと持っているんだもの。  持ち主の思考パターンを学び、限りなく近しい存在で居続けるセルフォイドは、自身を客観的に見つめるためにあるらしい。まあ、私たち子どもにとっては高いオモチャ感覚だけどね。でもオモチャだからって、殺そうとは思わない。実際、彼らとスキンシップを取るのは楽しいし、何よりも私を一番理解してくれる存在だということは、間違いないのだ。 「ただいま、セルフィ」  家に着くなり私は自室へと向かい、自分の右耳からイヤフォンを抜いて、部屋の一角にたたずむセルフォイドの耳にそれを挿し込んだ。毎日やっていることだ。帰宅したら、何よりも先に、この端末を彼女に渡し、今日一日がどういうものだったかを伝える。音声だけではなく、その時の私の体温や脈拍なんかもわかるらしい。 「おかえり、花束」  セルフィのマネキンのような腰に服の上から腕を回すと、彼女も私の名前を呼んで、優しく背中を撫でてくれる。おはようのときもするし、おやすみのときもする。一日最低三回は、セルフィとハグをしていることになる。 「怖い事件があったんだねえ」 「私、自分のセルフォイドをあんなふうにするヤツの気が知れないよ」 「うんうん、どうかしてるよね」  彼女の二つのレンズが私を捉える。彼女がかぶっているカツラの形も色も、私の髪とおそろいだけど、顔立ちはまったく違っている。こればかりは特注になるので一般家庭には難しい。でも、彼女は私だ。セルフォイドを殺すということは、つまりそういうことなのだ。そんなこと、とても恐ろしくてできない。  私はセルフィに口づけをした。 「ちょっと……、好きな人がいる間は、キスしないって決めたじゃん」  形の良い薄い唇を尖らして、セルフィが抗議する。 「だってしたかったんだもん、なんか……」 「とても悲しくて?」  言い淀んだ先をセルフィが続けて、私はうなずく代わりに彼女の背中に腕を回した。  肌も唇も全部作りものだけど、とても柔らかくてほんのりと暖かい。こうして遠慮なく体温を分かち合える対象がいることは、幸せなことだ。特に、私たちくらいの年齢では、幸せであると同時に大切なことだ。愛するためではなく、大切にするためにこうしている。きっとセルフォイドを殺してしまう彼らは、そのことに気づいていないのだろう。破壊でしか道が切り開けないと思い込んでいるのだ。  物思いに耽っていると、急にセルフィが私の両肩をつかんで身体を離した。 「ねえ花束、彼の名前、わかったかも!」  そして、笑顔でそう叫ぶ。 「イヤフォンが拾ってたんだよ。タ――」 「ちょ、ちょっと待って!」  両手をセルフィの眼前に広げると、私はすぐ背後のベッドに身を投げ出した。  彼の名前。どうしてか、知りたくなかった。  いままでの恋は、私は積極的なほうだった。相手の情報を集めてアプローチもした。でも今回は違うのだ、見ているだけでいいんだから。新しい恋の楽しみ方を知ったから、もう少しこの状況を楽しんでいたいのだ。 「まだ、知らなくていいの」つぶやく声がかすれた。 「いいの?」  いままでにないパターンのせいだろう、セルフィは困惑しているようだ。  いつか映画で疑似体験したことがある状況に似ている、と私は思った。奥手なヒロインにやきもきし、どうしてそんな密やかな恋があり得るのだろうと強く疑問に感じたが、いまならあのヒロインの気持ちがわかる気がする。  過去の似通った感情をかき集めながら、ベッドの上でクッションを抱きしめた私は目を伏せた。甘ったるい蜂蜜に、このままの形で沈み込んで、身体の芯までしたしたになってしまいそうだ。 「セルフィ」 「なあに、花束」  セルフォイドはどうあっても所有者と同一にはならない。  ツインレベルは限りなく零に近い値を行ったり来たりするだけで、それが零になることは決してない。人の心情は常に変化し続けるものだし、それを後から追ってコピーしているセルフォイドは、私たちに追いつくことはあっても、決して同じにはならないのだ。一秒前の私と零であっても、まさしくこの瞬間、私と彼女の距離は零ではない。  セルフィも彼のことが好きだ。  でもそれは、過去に私が誰かを好きになったパターンを模倣した恋心のままのようだった。  映画のヒロインにやきもきしたように、セルフォイドも私にやきもきしているかもしれない。 「もっと早く追いついて」  言葉にした瞬間、理不尽なことを言ったと自覚する。  セルフィの顔が不愉快に歪むのが見えるようで、私は両手で顔を覆った。  彼女が不快だということは、私も誰かにこういう態度を取られたら不快なのだ。わかってる、不快に感じることを他人には平気でしてしまうのが、私の大きな欠点だ。  翌日の登校時、満員電車の中で彼の姿を見つけ、私はいつものように、なるべく彼が見える位置にと身体を動かした。白雪の乗車駅はあと一駅先だが、朝に一緒になることは稀だ。  視線の先の彼も、朝は大抵一人らしく、いまも耳に挿し込んだイヤフォンを時折いじりながら、寝むそうな表情で窓の外へ視線を向けていた。  彼を遠慮なく人影から眺めていられる朝は好きだけど、今日は何故か素直にこの幸せに身を任せられない。機能のセルフィとのやり取りが引っかかっているのだ。  彼の名前。  私よりも先にセルフィが情報を入手することは多々あるけれど、逐次報告されるその内容を、私はいままでずっと素直に受け入れてきた。私が知っていて、彼女が知らないことも同様だ。報告を拒否したのは初めてで、またそのことを、彼を目の当たりにした私はひどく悔んでいる。聞いておけば良かった。どうして断ったりしたのだろう。  そのとき、聞き覚えのある声が耳に滑り込んできた。 「おっはよー」  白雪だ。  私はその姿を探そうとして、しかしすぐにそれの挨拶が、私に向けられたものではないと知った。おはよう、と別の誰かが返事をしたのだ。そしてそれは、紛れもなく、視線の先の彼だった。  どういうこと?  カバンを持つ手に力が入る。  けれども心は、それ以上の力でいまにも潰れてしまいそうだ。視線の先では、確かに彼と白雪が、お互いの肩がぶつからないように注意を払いながら、窮屈そうに身をよじっている。  イヤフォンは明瞭に二人の会話を捉えたが、私はそれを聞きたくなかった。いますぐにでも抜いてしまいたい。でも、吊革もカバンも手放すわけにはいかない。  カーブに差し掛かったのだろう、ガタンと大きく電車は揺れ、白雪の小さな叫び声が、律義に私の耳へ届く。  ――大丈夫? カバン落ちたよ。  ――うん、平気。ありがと、拾ってくれて。  ――いいよ、持っとくよ。  ――だめだめ、どこから見られてるか、わからないよ~。  ――何が?  ――タツミくんのことを見てる子が、いるんだよ。  すっかり視界から二人の姿が消えてしまってからも、二人の会話はまるで耳元で囁かれているかのように聞こえてくる。頭痛がして、顔をしかめた。気持ちが悪い。笑いを含んだ白雪の声を、こんなにも耳障りだと思ったことはない。  自分のセルフォイドを見て反省しろ!  心の中でそう叫んだ。  叫びながら、私は次の駅で逃げるように降りた。  電車を降りた私は、休む間もなく首にぶら下げたパーソナル・メモリアの携帯端末を取り出し、自分のセルフォイドにダイアルする。 「花束、どうしたの? 学校は?」 「わかったよ、彼の名前。タツミくん」 「ああ……」  セルフィはそう頷くと、私の説明を待っているのだろう、沈黙した。けれど、どう話せばいいのかわからない。わからないままに、先ほどのことを話す。イヤフォンを渡せばすぐに伝わるのに、と思うともどかしい。こんなにも自分が説明下手だとは思わなかった。 「もっと知りたいよ、セルフィ」  彼のフルネーム、クラス、活動サークル。白雪の言った、「タツミくんのことを見てる子」とは、私のことなのか。もし白雪が私の気持ちを知っていたのだとすれば、きっと影で笑っていたに違いない。昨日の電車だって、私がこっそり彼に視線を注いでることを知りながら、気づかないふりをしていたのだ。なんて、惨めなんだろう。 「彼のセルフォイドを割り出して」  セルフォイド管理局が提供するネットワークサービスで、彼の名前からナンバーを絞り込んで繰り返し検索すれば、いずれ彼が所有するセルフォイドが判明するだろう。けれどもいまは、それだけの作業環境がない。駅前で拾った無人タクシーで家に向かっているが、待ちきれない。でも、セルフィが媒体になってくれれば、学校指定のメモリアでも充分対応できる。 「だめだよ、セルフォイドから個人情報を引き出すのは……」 「ロックくらい、解除するよ」  私はすぐに答えた。  できる自信はあった。いままでだって、この手段を持ってしてアプローチを仕掛けてきたのだ。相手が迷惑になるようなことは、決してしない。むしろ好きな食べ物を調べて作ってあげたり、興味のある本をプレゼントしたりと、喜んでもらうためにやっている行為だもの。それ以外の情報に、手をつけたりはしない。 「学校公開のプロフィールじゃだめなの? いままでは、そうして来たじゃない。調べようか?」  私はセルフィに、セルフォイドから情報を抜いてきた事実を知らせたことがなかった。目で見る情報に関しては、セルフィは感知し得ないのだ。だから、私がその方法で情報を集めていたと思っているのだろう。学校関係者ならだれもが引き出せる内容だし、簡単で、合法だ。 「それじゃ駄目なの」  でも、それはあくまで入学時のプロフィールなのだ。  彼が何年生なのかは知らないが、遥か過去のデータであることには間違いない。ツインレベルで言えば初期値に近いだろう。それでは駄目なのだ、私が求めているのは、そんな役立たずな情報ではない。いまの彼を知りたいのだ。限りなく零に近い彼を。 「花束、今日はもう帰って来て。いま、どこにいるの?」  セルフィの声が優しく言う。  違う。  こんなの、私じゃない!  私はこんなふうに他人を思いやれるような子ではない。好きな人が絡めば特にそうだ。好きな人のことが知りたくて知りたくてたまらなくて、その気持ちを優先する。何よりも。  それが私だ。 「どうしてわかってくれないの、セルフィ。いつの間に私を理解しなくなったの。いつの間に、私を理解してくれなくなったの?」  セルフィと私とのツインレベルが開いていることを実感して、目眩がした。なんてもどかしいんだろう。ずっと同じだと思っていたのに、まさかこんなに説得しなければならないなんて。  早く追いついて、感じ取って――早く、私を受け入れて! 「好きになった相手をとことん調べるのが大沢花束だよ、知らなかった? だったらあなたは私のセルフォイドじゃない、全然同調してない!」  必死な思いで、最後のほうはほとんど叫んでいた。  どうしてセルフィのことで、こんなにも苛つかなければならないのだろう。  タクシーは家の最寄り駅を通り過ぎ、住宅地に入って行く。着いたらすぐにこのイヤフォンを差し入れて、セルフィに私を教えなくちゃ。いま、私がどう思っているか。セルフィと同調できなくてどれだけ不快な気持ちになっているか。 「そんな……」しかし、家に着くよりも前に、彼女は言った。「そんなこと言うあなたが花束じゃない」  涙に震えた声は、しかしきちんとメモリアからイヤフォンを伝って私の耳へと届く。 「いま、なんて言ったの」  つぶやきは、ほとんどかすれていた。  私を否定した。  私が、私を、否定した?  もしも他人が私と同じことをしていたとすれば、とても不快に思っただろう。どうしてそんなアンフェアなことをするのかって。でもだって、知らなければ彼のために色々なことができないから、最初は抵抗があったけど、だんだんそれも薄れていった。相手が喜ぶ顔を見れば、後ろめたさは一瞬にして消え失せた。  それがわからない私なんて、私であるわけがない。  自分を許せるのが私なのだ。  自分で自分を許せなかったら、一体誰が、こんな私を許してくれるんだろう。  私は私を否定しない。  あんなことを言うセルフィなんて、私じゃない。  タクシーを降り、玄関の鍵を開けた。部屋に入ると、目に涙を溜めたセルフィがこちらに顔を向けていた。首から下げたパーソナル・メモリアを投げつけ、彼女が顔を背けた隙にその首元へと飛びつき、細い首を締め付ける。するとすぐに、彼女の手が私の首に巻きついてきた。 「花束っ……」  ロボットのくせに顔を歪ませたセルフィは、まるで本当に呼吸困難に陥ったかのように息を詰まらせてあえいだ。私の首を締め付ける力も弱々しい。涙が一筋こぼれて、私の手を濡らした。脈が強く――まるで抵抗するかのように、強く打つ。それを私は手のひらに感じている。  けれども力を緩めることはしなかった。  緩められなかったのかもしれない。  私はいま、凄く怖いことをしているんだ――そう自覚しながらも、彼女を睨みつける目も、彼女の首を締め付ける手も、動かすことができなかった。  始めて他人のセルフォイドから情報を抜き出したとき、もしもあの後ろめたさを拭いきれないでいたのなら、私はこのセルフィのようになっていただろうか……。  急にセルフィの手が私の胸元を滑り落ち、力なく彼女の両脇に垂れる。  私はそれを見て、飛び跳ねるようにして退いた。  同時に警報音がうるさく響く。  どうすればいいのかわからず、ただひたすら、いま自分がしたことに驚いている。手のひらがまだ熱くて、自分の汗で湿っている。  でも手の甲に光るのは、セルフィの涙だ。 「あっ……」  たまらず、口を両手で塞いだ。  こみ上げる嗚咽が収まらない。  本当は、一目散にこの場を離れたかった。けれども足から力は抜け落ち、言うことを聞いてくれない。どうにかしてベッドまでたどり着き、クッションを抱きしめる。  目の前に、半身を前に傾けたまま停止しているセルフィがいる。  寒くないのに顎ががくがくと震え、それを止めたくて指を噛んだ。  セルフィを殺した。  目をかたく瞑る。  涙が頬を伝うのを感じた。  頭が痛い。  セルフィにもあっただろうか。私を殺すという衝動が、あったのだろうか。もちろんそんなことはできないようにプログラムされているだろう。でも私の首に巻き付いた彼女の手に、殺意がないとは言い切れない。  殺すべきなのは、こんなふうになった私のほうだ。  両の手のひらを眺める。  涙が、ぱたぱたと落ちた。  自分の首元にあてがった。  彼女が私なのだとすれば、彼女に殺されるのも、私が自分を殺すのも、同じだと思った。  セルフォイドを破壊したわけではないので、私がした行為はそのまますべて世間に知らされることはなかった。管理局としても、こういった事件が立て続けにニュースになるのは困るようだ。厳重な注意を受けるに留まり、警察に事件として届けられることはなかった。  一年間カウンセラーに通うことになり、その間セルフォイドはお預けになったけれど、私はその期間が終わり、セルフィが手元に戻って来ても、彼女を起動しなかった。  彼女とまた抱擁を交わして、謝りたい。そう思う。  初めのうちは殺して欲しいと強く願ったが、いまは落ち着いている。  けれども、もう少しだけ、時間が欲しい。きっとまた私はセルフィに甘え、ツインレベルに苛立ち、彼女を深く傷つけるだろう。それが怖くて仕方がなかった。  自主的に続けているカウンセラーの先生にそのことを伝えると、自覚しているなら大丈夫と言ってくれたけれど、まだ勇気が出ないでいる。 「おはよう、セルフィ」  けれども朝起きると必ず、彼女の身体に手を回す。  背中が寂しいけれど、もう少し。あと少しだけ、我慢しよう。  素直な気持ちで、おかえりが言えるまで。
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