純文学小説投稿サイト jyunbun 投稿小説番号005 『クックドゥードゥルドゥー』  プログラムの八番は徒競走で、あたしの大好きなタカシ君が 走ると思うとあたしは胸がドキドキした。  今は、運動会である。どのような運動会かと問われれば、皆 が思っているような運動会であるとしか言いようがなく、あた しはそのような運動会を描写する気にはなれない。このような 平凡きわまりない運動会は、まったく描写しないか、もしくは 嫌がらせのように長々と描写するに限るが、今回は前者を選ぶ ものとする。  あたしがタカシ君を好きな理由は、タカシ君にはペニスが二 本あるからだ。タカシ君にペニスが二本あると知ったのは、今、 あたしの横に座っている香苗が、二週間くらい前に、顔面を白 い粘液まみれにして、「ねえ、タカシ君のペニスはね、二本あ ったよ」と、精液まみれの顔を歪ませ、笑ってみせて言ったか らだった。香苗は、タカシ君と性交したのだった。性交した際 に、香苗は、タカシ君の二本のペニスでもって、肛門と前門と を同時に犯され、それはとてもとても気持ちの良いものだった そうで、香苗の言葉を借りれば、「あたし、海見ちゃったわよ」 である。  しかし、あたしはタカシ君に近づけなかった。あたしはあた しの顔面のおかげで、あたしは異性に対して引っ込み思案だっ た。しかし、あたしの顔面は醜いかというと、決してあたしの 顔面は醜くない。むしろ、美しい。問題なのは美醜ではなく、 あたしの頭部が鶏のそれであるということである。そう、あた しの頭部は鶏だった。あたしの頭部には鶏冠(とさか)があっ て、白い羽毛に覆われており、黄色い眼球があった。しかし、 あたしは決して醜くない。鶏冠はちょっと脱色して、栗色にし ていてオシャレだし、あたしの首から下は人間のそれであった。 あたしのバストはこの歳にしては大きく、乳首は桃色だ。それ に陰部を覆っている恥毛は、汚らしい黒色ではなく、柔らかい 白色の毛である。だから、問題なのは美醜ではない、問題なの は、あたしの吐く言語が「クックドゥードゥルドゥー」以外に は何もないという事だ。そう、あたしは「クックドゥードゥル ドゥー」としか言えないのだ。「タカシ君大好き!」と叫びた くても、それは「クックドゥードゥルドゥー」としか発音し得 ない。「お腹が減った!」も、「クックドゥードゥルドゥー」 である。「先生。検便もってきました!」も、「クックドゥー ドゥルドゥー」である。「先生。うんこを割ったら、真珠が出 てきました!」も、「クックドゥードゥルドゥー」である。 「先生。バナナはおやつに入りますか!」も、「クックドゥー ドゥルドゥー」である。「先生。バナナはまんこに入ります か!」も、「クックドゥードゥルドゥー」である。「先生。イ キそうです。もうイキます。イクーーーー!」も、「クック ドゥードゥルドゥー」である。  あたしは、どんな下品なことを言おうと、どんな高尚なこと を言おうと、すべては「クックドゥードゥルドゥー」に回収さ れてしまう。つまりは、他人にとって、あたしの考えているこ とのすべては「クックドゥードゥルドゥー」であり、あたしは 他人から「クックドゥードゥルドゥー」としか考えていないと 認識されている人間である。香苗が精液まみれの顔をして、あ たしにタカシ君との汚らしい行為を平然と告白したのも、あた しが「クックドゥードゥルドゥー」としか考えていない人間だ からだと思っているからだ。  あたしは処女であるが、正確に言えば、あたしの処女は、あ たしの前門だけにある。肛門は処女ではない。肛門は以前、父 親に犯されていた。あたしは以前、家にだれもいない時を見計 らって、部屋でアダルトビデオを見ながらオナニーをしていた のである。あたしは喘ぎ声をあげながら陰部をさすっていると、 誰もいないと思っていたのは間違いだったようだ。部屋に父親 が入ってきた。その時、父親はなぜか知らないが、アンパンマ ンのお面を被っていて、「お腹が減ったのなら僕の顔をお食べ」 と、意味不明のことを言いながら、部屋の隅で放尿をはじめた のだった。あたしはオナニーをしながら「クックドゥードゥル ドゥー(そんな所で尿をするな)」と言うと、父親は「ジャム おじさん、パトロールに行ってきます」と言って、あたしの肛 門をパトロールしたのだった。  父親があたしの肛門をパトロールしている時もあたしは「ク ックドゥードゥルドゥー」と言った。そして「クックドゥードゥ ルドゥー」としか言い得なかった。  しかしあたしは父親にパトロールされた後の、ヒリヒリと痛 む肛門に、メンソレータムを塗りながら、父親にパトロールさ れている時の「クックドゥードゥルドゥー」と、タカシ君に犯 される時の「クックドゥードゥルドゥー」は、同じでありなが らも違うのではないかという思考を巡らせた。「クックドゥー ドゥルドゥー」は、あたしに唯一与えられた言語であるが、し かし一つとして同じ「クックドゥードゥルドゥー」は、ない。 それは一見同じに見えながらも、わずかな差異をもつ。それは まるで、昨日出したウンコと今日出したウンコが一見同じもの に見えつつも、実は違うのと同じように、違うと思う。あたし は以前、ウンコにマンネリズムを感じ、いつもとは違うウンコ をしようと試みて、緑色の野菜ジュースをたくさん飲んで、緑 色のウンコをしたことがあるが、あの時のあたしは若かったし、 愚かだったと今では思う。  そしてあたしの「クックドゥードゥルドゥー」には決して同 じ「クックドゥードゥルドゥー」はない、という事をはっきり させるためにも、あたしはタカシ君に犯される事を切実に夢見 ていた。  いま、あたしの隣に座っている香苗はとてつもない美人で、 女優の菅野美穂に似ていて、みんなから「香苗って菅野美穂に 似てるよねー」と言われていて、実際、似ていた。香苗は人に 会うたびに「香苗って菅野美穂に似てるよねー」と言われ続け ていて、みんなはもう面倒くさくなって香苗のことを菅野美穂 と呼ぶことにしていた。菅野美穂はタカシ君の二本のペニスで もって肛門と前門とを犯されたことは前に書いたが、菅野美穂 はそのあともタカシ君と関係を続けているようで、あたしはこ ないだ菅野美穂がタカシ君の二本のペニスを交互に口でしゃぶ っているのをこの目で見てしまった。菅野美穂はタカシ君のペ ニスからシャワーのように吹き出る精液を全身に浴びていて、 その時、あたしは美しいと思った。美人には精液が似合うのだ な、とも思った。 「タカシ君がんばってー!」  と声があがる。あたしではない。勿論ない。声を発したのは 菅野美穂である。あたしもタカシ君には頑張ってほしいと思っ たがあたしは「クックドゥードゥルドゥー」としか言えない。 しかしあたしは声を発した。何度も、何度も、発した。「クッ クドゥードゥルドゥー」と「クックドゥードゥルドゥー」との 僅かな差異を伝えるために、何度も発した。  すると、位置についているタカシ君が、一瞬こちらを見たよ うな気がした。あたしと目が合ったような気がした。  伝わった。そう思うとあたしは涙が羽毛を伝うのを感じた。 あたしは涙が止まらなくなり、「クックドゥードゥルドゥー」 と呟いた。
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